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碁を打っているとき、石を攻めているときの方が怖いと言うことがあります。むしろ、強い人ほど攻めるのを恐れ、攻められるのを喜ぶかもしれません。別にマゾヒストなのではなく、相手を攻めていれば調子がいいように見えて気分も高揚してきますが、攻め損なえば利得はないばかりかかえって強烈な逆襲を受けるということが少なくないためです。 懲戒請求も、攻めている間は威勢が良かったかもしれませんが、攻め損ないということになったときに受ける反撃は考えておくべきことです。 いよいよ懲戒請求に対して、東京弁護士会の綱紀委員会から通知が届きました。攻め損ないの結果が明らかになってきたと言うわけです。 弁護団に目をつけられる危険を冒して日弁連に異議を申し立てる信念の人(?)がいるかどうかはわかりません。しかし、決定文を見る限り、懲戒請求者に弁護士会が向けた言葉は、相当に厳しいものと言わざるを得ません。 議決書は、まず懲戒請求者がなんと言ったかを明らかにし、次いで請求された弁護士の言い分を記載しています。まあこれはなんてこともありません。 決定文はここからどうぞ。 しかし、その後の理由は厳しいです。一部を抜粋しますと、 「懲戒請求者は、弁護団の主張が科学的にも常識的にも理解できないものであると主張するが、弁護人は上記の職責からして、被告人の主張や弁解が仮に一見不可解なものであったとしても、被告人がその主張を維持する限り、それを無視したり、あるいは奇怪であるなどと非難したりすることは許されないし、被告人が殺意を争っている場合においては、弁護人が被告人の意見に反する弁論をおこなうことは、弁護士の職責・倫理に反するものであり、厳に慎まなければならないのである。 弁護団が、被告人の弁明を誠実に受け止めて、これを法的主張としておこなうことは弁護人の正当な弁護活動であり、これによって、仮に関係者の感情が傷つけられ、精神的苦痛を与えられたとしても、ことさら、その結果を企図したものでない限り、その正当性が否定されるものではない。 以上のことは、憲法と刑事訴訟法にもとづく刑事裁判制度から必然的に導かれるものであって、懲戒請求者の主張はこの点についての理解の不足によるものと言うほかない。」 「懲戒請求者の主張によっても、本件に関する裁判経過に照らせば、弁護団がいたずらに裁判を遅延させるような活動をおこなった事実は認められない。」 はっきりいって、ズタボロです。テンプレート懲戒請求者の言い分は「何一つ」認められていません。しかも、多くの弁護士たちがネット上で語っていたのとほとんど同じ理屈です。 弁護士会は、「懲戒請求者の主張は理解の不足によるものと言うほかない」というのです。きちんと理解していればこんなことにはならなかったと言うわけです。 仮に「この判断が正当である事を前提に」裁判所に判断させるなら、平成19年4月24日最高裁判決の「懲戒請求が事実上又は法律上の根拠を欠く」に該当することは避けられないでしょう。「控訴審での遅延活動」は事実上の根拠を欠き、「苦痛を受けたのを問題視する」のは法律上の根拠を欠きます。 そうすると調査検討義務が十分果たされていたかが問題になりますが、「必然的に導かれるもの」についてこう言われているようでは、ろくな調査検討を行っていなかったとみなされる可能性は相当に高く、不法行為の成立にぐぐっと近づいてしまったと考えざるを得ません。懲戒請求をするのになんの調べ物もしなかったんですよなんて、通用するはずがありません。 テンプレートを用いていることも、一つの重大な間接事実でしょう。テンプレートを用いた人はネットが使える可能性大でしょう(誰かからもらったと言うのでなければ)が、ネット上で多数の弁護士がずばりと批判していたことや今枝弁護士がブログを開設し、折に触れて説明していることもあります。 もちろん、これはあくまでも東京弁護士会綱紀委員会の判断。一応懲戒委員会に回している弁護士会の方がむしろ多いようです。 日弁連に異議を申し立てればひっくり返ると信じるのならそれは自由です。 裁判所が「弁護士を懲戒せよ」と弁護士会や日弁連に判決を下すことは許されないと言うのが全く動きそうにない判例ですが、不法行為訴訟なら懲戒相当を前提に判断してくれると信じるのも自由でしょう。 綱紀委員会の弁護士に対して懲戒請求という大技をする人たちもたまにいるようです。(私の民事訴訟法の師匠への懲戒請求をはねた弁護士はそれをやられたらしいです) ただしこれらを実行するのは当てにしないに越したことはない無理攻めでしょう。不法行為となった場合に更に損害を増大させ、これまで我慢してきた弁護団を怒らせる可能性が上がるというのは、おそらく法律家たちの多数見解であろうと思われます。 そういえば、橋下氏は、何千何万と懲戒請求が集まれば懲戒しないわけにいかない、と言い放ちましたが、ものの見事にそれは打ち砕かれました。 番組で何千何万と、と言ったから個人に対して百単位では無理などと言うような狂弁を飛ばしてくるとも思えません。 少なくとも弁護士会などではこのことは相当な話題になっているようで法律事務所に研修に行かせていただいた際までこのことは話題になっていました。(ちなみに、私がここの主であることやどんな意見を持っているかは述べておりません)懲戒制度を巡って悲痛なことを言う弁護士の先生もおり、(これは後日別個に記事にします)一大問題になっているようです。 もちろん、控訴審の弁護側最終弁論で結審するのはこの後ですから、3年の除斥期間内は辛抱強く待って懲戒理由となるだけの証拠を別個に探し出し懲戒請求する、という人もいるかもしれません。と言うか私は懲戒請求したいならとりあえずそうします。 また、他の懲戒理由を書いた人がいるのだとすれば、彼らにどのような対処が行くのかも興味があります。もしかしたら革命的なすごい論理で懲戒委員会を説き伏せて攻めを成功させてしまう人もいるかもしれません。 他の弁護士会の判断も待たれます。 しかし、攻めそこなったとなれば懲戒請求への包囲網がじわじわと完成していくであろうことは避けられないと思われます 弁護団が包囲網の中にいる懲戒請求者を攻撃すると言う手は現段階では取る意思はないようですが、懲戒請求の社会的影響から一般人提訴もやむなしと言う見解さえ指摘されています。私もぎりぎりまで避けたい手段だとは思いつつも、仮に橋下氏が勝訴するようなことになれば一般懲戒請求者を提訴してどこかに責任を求めると言うことを考えざるを得ません。因果関係がないとか言う認定ならまだしも、全面的に適法と言うようなことになれば本当に刑事弁護や弁護士の職務全体に計り知れない影響を及ぼします。 もしそうなった場合。自分のやったことの自己責任といってしまえばそれまでかもしれません。こうした動きに一斉に警鐘を鳴らした多数の法律家がいたし、その中には丸山和也弁護士のような有名弁護士もいたのに、それには耳を貸さず、橋下氏や自分の言い分だけ使ったわけです。 自分の権利が害されたわけではないのだから、両者の比較検討以前にこの問題におよそ首を突っ込まない、あるいは分からないので口を出さないという選択肢だってあったわけです。そして、橋下氏の言うことが本当かどうか、検討をする機会も検討のきっかけとなる見解も提示されていた(508人のアピールなど)にもかかわらず橋下氏や自分の見解を信じると決めたわけです。 この点に関しては、しっかり責任を取っていただかなければなりません。こんなこと信じ込ませるなんて・・・と怒るのは自由ですが、それは自分と橋下氏との間で解決すべきこと。第三者の知ったことではありません。 しかし、こうやって責任を問うことに意義はあるとしても、何の生産性があるのか?と考えると、賽の河原にも似た虚しさです。 獅子と虎が争ったまま崖の底に転がり落ちていくのを見るようです。 懲戒請求をした人は、この事件に関して何をしたかったのでしょうね? 仮に懲戒請求をしてそれが判断されて懲戒相当ということで業務停止やら退会命令やら除名やらということになれば、弁護団は全員辞任することになってまた新たな弁護人をつけることになります。もちろん、弁護人を交代すれば弁護人にけっこう長い準備期間を与えざるを得なくなり、事件の解決が遅れます。 それでも、懲戒したかったのでしょうか。 ※※※※※※※※追記※※※※※※※※ 東京弁護士会のHPに、懲戒しない旨の決定文が掲示されました。 弁護士会HPを毎度見ているわけではありませんが、懲戒しない旨の決定をわざわざ掲示するとは正直思われませんから、この掲示には、かなり大きな意味があるものと思います。また、対象の弁護士の承諾も一応取ったのではないでしょうか。 おそらく、東京弁護士会の上のほうは、それなりに力を入れてこの問題に対処することを決めたのではないでしょうか。懲戒請求者に向けられた厳しい言葉は、請求者に限らず広く世間に向けられたものでもあるということだと思われます。 もともと、東京弁護士会は光市事件での弁護人への脅迫などの行為にも抗議の会長声明を発表しています。本格的に今後何か始まるかもしれません。 東京弁護士会は記者会見を開いては、という説もありましたが、他の弁護士会にも係属中なのでそれはやれないと考えたかもしれません。しかし、今後他の弁護士会の判断が揃い、うまく足並みが揃えば、一斉に何らかのアクションを起こすかもしれません。むしろ、起こしてもらいたいと考えます。 もちろん、弁護士会にできることは高が知れていますが。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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