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小林英夫『〈満洲〉の歴史』(講談社現代新書、2008年)。
「満洲」という国の存在を知っている人っているのだろうか。関心を持とう、思い出そうとする人もいるのだろうか。 今まで読んだ小説を振り返り、満州国やノモンハンという地名が出て来て、関心を持った人、例えば、村上春樹『ねじまき鳥クロニクル』、安彦良和『虹色のトロツキー』半藤一利『ノモンハンの夏』を読んだことのある人は、この本を読んでみるとおもしろいかもしれない。読んでいくにつれ、例えば、高校の教科書のような一般の歴史本で得ることのできる一部の知識と重なりあい、知識や理解が深まっていくことに喜びを感じることができる。 私の理解では、一般の歴史本にある「満洲」については通説の中の一事件として捉えられ、いずれも簡略的な説明になることが多い。この本は、著者が「日本人の視点を意識」して書いた模様。だから、非常に分かりやすい。 小林氏は、当時の日本人が満洲についてどのように見ていたか、現在の日本人が満洲ブーム(少なくとも執筆した当時はそうであるらしい。)にあること、現在、「満洲」が過去として語られるようになったことを説明する。 私にとってスリリングだったのは3点。 1、日清戦争後から満州事変までの「満洲」について説明。(第2章、第3章) ・「満洲」が日本の藩閥政治から政党政治への移り変わりの影響をへて、統治者と満鉄幹部も官(台湾総督府出身)から民(三井物産出身)へ変わってきたということ。 ・張作霖という人物。その偉大さ。 2、「満洲産業開発5ヵ年計画」の挫折と夢(第5章、第7章) ・「満洲産業開発5ヵ年計画」がどのような目的による、どのような計画であり、なぜ挫折したか、について。 →満州国の歴史は、石原莞爾自身の政治史。 ・一見挫折に見えたが、岸信介など旧満洲国官僚、満鉄職員による戦後の高度成長計画へ連動していくという視点。 3、満洲の記憶とその変容 ・満鉄の歴史がその時代背景により語られることが変化していく。(第3章) ・満洲の歴史も、戦後、その時代背景ごとに語られ方が変化していった。(第8章) 他にも色々とうなづかされたが、第1章から第5章まではそれぞれの章と節、項が着実にリンクしているので面白い。第6章が小休止的、第7章から第8章は第5章以前とリンクのされ方に比べると少し尻すぼみがちか。 ただし、小林氏が「あとがき」に書いているとおり、「植民と工業化と政治文化」というテーマと「日中対比」する中で描こうとする目論見においては、私が思うに一応は達成されている。 満洲に関係した調査や勉強をスタートしようとするとき、手始めに読む本として最適であると思いました。 また、忘れた頃に読もう。 2009/10/5読了。 あしま お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2019.08.31 10:41:47
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