赤トンボがつがったまんま窓外の桑の葉っぱに留まっている。その桑の葉は低気圧の雫が起こす風で揺れている。その手前の窓のこのモニター画面の前のブラインドをがらがらと引き上げれば、全開された素通し硝子越しのひかりが流れこんで硝子窓の平たい表面に一匹、蠅が留まっているのが見える。スリープから解除しなくなった原因を探ってネットを検索しているうちにうかつにもアライグマな執事氏のトラバに気がついてしまいまんまと『太田裕美』を一枚注文してしまった。14号が北の海に去ったとおもったら15号が南の海に発生した。これをPC上のネットゲームにシミュレートすれば、まるで現れては消える忍者ではないか。女忍者か、九の一か、ふうん。さいきんようやくコテツがただ者でないことを発見したばかりだが、嵐も地震も津波も巨大化してゆく新世紀らしく、滑るように富士のふもとへながれてゆく高速道路の車の列をながめる2005年9月7日の水曜日の正午前。
雨が上がったようだったから猫どもの食料を調達に出ようと考えていると、また降りだした。おまけに渓谷の木々が大きく揺れている。それで出かけるのを諦め、本日の自分が食べる食料だったはずの金目鯛尾頭付きをグリルで焼きコテツ、グレ、ミーらのまえに皿に盛って差し出した。夢中になって食べてくれたのは産後の肥立ちなミーチャンだけで、グレは反転転側ごろごろとでかい堅太りの三重顎の図体をタタミの目に沿って転がしているばかりだし、コテツはベッドの下の薄闇の定位置に引きこもって居眠りをはじめた。虻が一匹窓硝子を這っている。CDにつづいてアマゾンの密林に隠れていた秘本を数冊発作的に追加注文してしまう。都会にいると散歩をして本屋の前を通過するときはできるだけ目を閉じるわけだが、ネット世界でも考えなくてはならないなあ。霧雨のような雨がわたるとふたたびねっとりした湿り気を帯びた大気が室内にながれはじめる。
亜さん から『リーダーの易経』(PHP刊)を頂いた。有難い。じっくりと読んでみよう。ふと、中村天風の著作をおもいだす。昨年のいまごろはこの天風の本を大いなる共感を持って目薬を浴びつづけつつほぼ全冊読破したわけだ。それで、…そうだった!
きのうにひきつづいてのとりとめのない話題で恐縮だが、もう日付も変わったからこの頁に書き継ぐことにする。とくべつなことでもないけれど。日本を発つときに総選挙がスタートしてそのときにすこし書いたとおり、もしもこんどの選挙に「争点」なるものを見るとするなら、
民族の選択 とでも呼ぶべきシロモノになるのではないかとおもう。それは究極の選択になる、とも書いた。どういうことか。うっかりな舌足らずのせいでナショナリズムのごとくに誤解されても困るのでこのことをもうすこし実例を挙げて言い継ぐことにする。明快にばさっと言えるならいいのだが、どこか言い難い困難さが伴う事象であるからやっかいだ。しかし概略は、誤解を恐れずに言えば、日本という國の形すなわち「ありよう」に深く関わる事柄であろうと考える。国粋主義というものとは無縁であるけれども、しかしこの日本という風土のなかで培った文化文明をじっくりと見直すことからはじめなくてはならない点では、あるいは一種の国粋かもしれない。いっぽうでこうした事柄には回帰する原点のような、あるいは別の言い方をするならば、民族の拠り所といった物事が関わるだろうとも考える。民族という視野からもういちどこの弓状列島に住むわれわれという存在を見つめ直してみる。これは排外主義でもなければ、狭量な民族主義でもない。そうしたものとは無縁と言うよりもはるかに遠く離れた存在である。このことを決然と明確に輪郭を持ったモノとしてみるために、ひとつの仮定を対置させてみる。それには、他国による侵略、という事柄がいいかもしれない。事実60年前の夏この列島で起きたことは、そうしたことに近かった。愚かな植民地主義や見当はずれな汎アジア主義がもたらしたあげくの敗戦ではあったが、進駐軍による日本国占領はまぎれもない「侵略」という側面を持ち得た。言葉の厳密な意味において語るとすれば、「占領」も「侵略」も結果と過程ほどの距離にあるだけであろう。ここで問いかけたいのは、しかしそうした占領の意味や結果ではなく、そうした出来事によって生じる民族の溜め息のようなシロモノについての考察である。被支配という屈辱にまみれたひとつの民族国家の住人たちの集団心理において生まれるであろう、吐息についてである。具体的に言うならば、価値観の強引な転倒だ。生き方の、社会の、自然や信仰への、突如としての全否定…。真空管現象。頭がピーマン現象。それこそまっさらになって、何をどうしていいか分からないままに、日本人は米軍を迎えた、その60年前の夏である。そこにこだわるとき何が見えてくるか?
写真は室内を飛ぶ蛾をみつめる初秋(本日午後10時ごろ撮影)のコテツ。このあと跳び上がってみごと捕獲した
┌|∵|┘