石冢雄人のナイチンゲール・カンパニー

二時間ほど仮眠をしてクッションの下に転がり落ちて目を覚ます。外気温20度、室温は25度。木星大気のように厚い雲のあいだから鈍い光が差し込んでいる。「おい、大統領が乗っているぞ」と背後で声がした。ハナレ猿のジョージ・B・ジュニアが裏山の土砂崩れ防御フェンスを越えて、屋根づたい猫の餌を横取りに来たのだ。がらっと硝子戸を開けて縁側へ出ると、しなだれかかった緑の柳の下には六匹の子猫にミーチャン＆ソテツ母娘が寝ている。トタン屋根を夜通しゐぢめぬいた大雨が上がって見上げる山頂付近の大岩が、そろそろ落ちてもいいかあ？、てなぐあいに存在をアピールする。あんたが落ちてくれば世界は破滅だ、もうすこしだけ堪えてくれ、と声をかけ、それからエスプレッソコーヒーマシンに指を、いや粉を詰め込んだ。スーパーでまとめ買いしておいたひと束百円の腐りかけた台湾バナナを一房ミキサーにほうりこみ、氷と牛乳を注ぎ込む。にっくきテロリスト・ザルカウィを爆殺したハナレ猿は支持率アップにやっきだが、ABCナイトラインが言うには08年のヒラリー新大統領に風は吹きはじめて、わが植民地のニッポン州でもさっそく民主民主という風がカミカゼのごとくにうっとうしい梅雨空に跳ねている。昨夜はアルゼンチンの超絶足技に酔って、意識はそのままどうやら二年先の未来までいっきに駆けて行ってしまったらしい。あわててもどればまだ日本時間の17日午前０時半で、そこからふたたびパソコンに向かい取材テープを叩きはじめて、はっと気がつけば21世紀初めの山の中腹の小屋の床にはだかのまま転がっていたのだった。

さて、ニンニクの芽を切り刻んで湯通しして炒めて卵をスクランブルして朝食しよう。