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カテゴリ:宗教
一夢庵 怪しい話 第4シリーズ 第576話 「契約の行方」
旧約聖書の中で”出エジプト”といえば、それだけで一つの本になっているくらいの文章量になりますが、概略としては、エジプトに移住していたイスラエル人たちがエジプトを自らの意志で出て(或いは事実上、追い出されて)、かって本拠地にしていたカナンの地へ戻り、現地の部族を虐殺して定住するようになるまでの話ということになります。 一応、エジプトをイスラエル人達が出ようとするとファラオが止めたので、10の禍を起こしてファラオを納得させたことにはなっているのですが、冷静に考えれば、数々の災害を起こし、極めつけは国内の長男を一夜にして不審死させることができるような民族を国内に抱え込んでおきたい為政者がそれほど多いとも思えません。 というか、多数の死者を出すような10にも及ぶ禍を起こしたのだからイスラエル人はエジプトから出て行け!となるのは必定で、前もってモーセ達が禍の発生をファラオ達に予告していたことは、禍が現実となればなるほど衆知の事実となっていたでしょうから、謎の疫病で家族が死んだのも自分の長男が不審死したのも、その総てがイスラエル人が意図的に実行したと考える人が増えれば、別に神の手を借りなくても自らの手で報復する人達が出ても不思議では無いのではなかろうか? そう考えると、モーセの一行がエジプトを出た後になってファラオの気が変わって正規軍を派兵して連れ戻そうとしたという解釈は整合性を欠くことになり、確実にモーセ一行がエジプト領内から出ていくところを確認するために監視役として派兵されていたと考えるのが一番筋が通るのではなかろうか? それとも、ファラオは彼等を連れ戻すことで生じる可能性がある11番目以降の大規模な”禍”を受け入れる気になったのだろうか? また、モーセ達がカナンへ向かった旅程にはシナイ半島を地中海沿岸にそってほぼ直進する最短の北方コース説と、わざわざシナイ半島の沿岸部を南に進んでぐるっと回り込む南方コース説の2つがあり、北方コースの場合、シナイ山がジュベル・ヒラルに、南方コースの場合はジュベル・ムーサになるとされています。 逆に言えば、モーセが神と”十戒”の契約を結んだ重要な山でさえ特定されていないということですし、カナンへ帰ることが最優先事項だったにしては、長距離の迂回コースになる南方コースを数千とか数万の規模で移動することにはメリットよりデメリットの方が多いというか、なぜそのような迂回コースをとる必要があったのか聖書に納得の出来る解答が記されていなかったりもします。 故に、エジプトの軍事侵攻の先兵役としてイスラエル人がシナイ半島を武力制圧して回り、エジプトは物資の補給などでバックアップし、イスラエル人が陥落させた都市などは彼等が立ち去った後にエジプトが実効支配していったのではないか?と私は勘ぐっています。 というのも、行く先々の部族と武力衝突したことは聖書にも頻繁に出てくるのですが、自分たちから一方的に襲った相手集団を根絶することなく先に進めば、後方から報復追撃されるリスクが生じるだけに、後方の拠点確保は誰が行っていたのか?が謎になるわけです。 いずれにしても、その旅の途中にシナイ山で神と40日かけて契約を交わして、その内容を刻んだ石版を得たモーセは、その石版を収納した箱を”契約の函”と称し、幕屋と呼ばれる仮設というか移動式の礼拝所の一番奥に配置するようになるのですが、それが映画”インディジョーンズ 失われたアーク”の元ネタになったことは比較的知られた話になります。 ちなみに、以前にも少し触れたことがありますが、契約の函の形状が日本の御神輿に酷似しているとか、幕屋と呼ばれる礼拝所の配置が日本の神社の本殿の構造に類似しているといった指摘があり、四国の剣山などに契約の函が隠されているという噂があり、それを暗示させるような御輿を使う神事が継承されていたりもします。 それはさておき、契約の刻まれた石版に関しては、モーセが最初の石版を抱えて山から下りてきてみれば、麓で待っていた一団が、さすがに40日も最高指導者不在で戦争もせずにいるとタガが弛んだのか、飲めや歌えやの乱痴気騒ぎをしていたことで激怒して叩き割ってしまったのでした。 激怒したモーセは”十戒”を受け入れて神の指示に従うかどうかを迫り、それを拒絶して離反した3000人以上を処刑するという粛正を行っているのですが、これは同族殺しになるわけですから、そもそもの疑惑である、モーセって本当に12部族の末裔なの?という疑問がここでも鎌首をもたげるわけです。 一種の恐怖政治の始まりですが、最初の石版を破砕してしまったことで、再び貰い受けることになったという説と、最初から石版は2枚で一組でモーセが砕いてしまったものが復元したという説があるのですが、いずれにしても、契約の箱の中には2枚の石版が納められることになったようですが、此の辺りまでが”出エジプト”におけるモーセの話で、これ以降のモーセ達の話は”レビ記”、”民数記”、”申命記”などで語られることになります。 ただ、”十戒”の中で”偶像礼拝を禁止”していながら、契約の石版といった新たな神秘現象を伴う一種の偶像を持ち出してきて、それを礼拝の対象とさせなければならないほど一行の間の不満が増大していたと考えることもできます。 現実問題、先祖の故郷であり、神が約束した”乳と蜜の流れる地”であるからカナンへ向かうと言っていたハズの旅が、行く先々で別に怨みがあるわけでも無い地元の部族と戦争をする意味不明な遠征軍のような旅になって死傷者が増加してくると、これって奴隷待遇でもエジプトで生活していた方が良かったんじゃね?と考える人が出てこない方が不思議だと異教徒であるが故に私は思います。 私の疑惑を置き去りにして、モーセ達がカナンの手前のカデシュ・バルネアという街まで辿り着いたあたりに話を進めると、モーセは12の部族から1人ずつ人を出させて、12名の先遣偵察隊を組織してカナンの状況を探らせたことになっています。 偵察隊は40日後に帰ってくるのですが、エフライム族の(後にモーセの後継者となる)ヨシュアとユダ族のカレブの2人が”神の導きがあれば勝てる!”と主張した以外、残る10人の共通した見解として”街は強固な城壁で守られ、住民は屈強で、我々に勝ち目はない”といったあたりに落ち着いたようです。 先行偵察隊の報告内容を知った一行の多くは、攻略不可能とする10人の見解を妥当として支持し、出エジプトを煽動したモーセとアロンの見通しの甘さを非難するのですが、ここで”神”は逆ギレして、ソドムとゴモラを一瞬で滅ぼしたようにカナンの重要拠点を滅ぼしてしまえばよさそうなものを、”今後、40年間はカナンの地に帰還することはかなわない!”と宣告したとされています。 別に、どうしてもカナンへ帰りたいんです!とエジプトで主張していたわけでもないイスラエル人からすれば、神がモーセを使ってカナンに帰るように煽動しておいて、いざカナンが近くなってみればすんなり定住できるわけでもないのが現状なのに何を言ってるんだという気がしたと思いますし、シナイ山で十戒の絡みで3000名を越える粛正もした後だけに、不満を持つなという方が無茶というものでございましょう。 かといって、モーセたちが(別にイスラエル部族の代表達に頼まれたわけでも無いのに)エジプトで10の禍を引き起こしたが故に、エジプトに今更戻るわけにもいかず、カナンを掌握するには軍事力が足りずという現状を考えれば、別に神が40年の間はカナンに帰還が叶わないと宣告したというより、現状では不可能なことを神が自ら認めたに等しいと言えます。 逆に言えば、40年(約2世代)かけて兵を養わなければカナンの攻略は不可能だったということで、当然、カナン攻略が始まる前にモーセもアロンも亡くなるのですが、モーセが死んだ後のリーダーは、なぜか”神が選んだ”そうで、ヨシュアがイスラエル12部族を率いることになります。 聖書によれば、メリバの泉で神が聖なることを示さなかったことで、モーセは約束の地に入ることが許されないことになったとされていて、ヨルダン川の手前のモアブの草原からネボ山に登り、約束の地を目にしただけでこの世を120歳で去ったことになっています。 モーセの遺体はモアブの谷に葬られたともネボ山に葬られたともされているのですが、”その場所は誰も知らない”とされているあたりや、モーセの死後、その従者のヌンの子にすぎないヨシュアが後継者となったあたりで、これまで延々と聖書で語られてきた血脈の継承とは無縁の状況になるだけに、当時、かなりの混乱が生じたと考えるのは考え過ぎか? イスラム教では、モーセは預言者”ムーサ”として人気が高く、ノア(ヌーフ)、アブラハム(イブラーヒーム)、イエス(イーサー)、ムハンマドと並ぶ五大預言者のうちの一人とされ、ムーサーとハールーン(兄のアロン)はエジプトのファラオに唯一なる神を信仰するよう求めて杖を蛇に変えるような奇跡現象を幾つか起こしてみせるのですが、ファラオに受け入れられずエジプトを去ったことになっているようです。 話を戻すと、後継者となったヨシュアが最初の攻略目標としたのが、ヨルダン川西岸というか死海の北に位置するエリコで、新世紀エヴァンゲリオンのTVシリーズ(第9話)において、アスカが”これは決して崩れることの無い、ジェリコの壁!”と宣言し、旧約聖書に詳しくなさそうな碇君が何のことかわからなかった、あの”ジェリコ”のことになり、堅牢な城壁で知られた城塞都市とでもいったことになります。 では、どうやってジェリコの壁は崩されたのか?アスカのように寝ぼけて自ら壁を越えて外へ出たのが敗因なのか?その辺りの話はまた別の機会に(笑)。 (2012/11/23) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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