就寝前の様子
東京都足立区の小鳥屋さん『鳥信』のサイトに「文鳥の雛は23日お昼頃入荷予定です」とあるのに誘われて、午後、出立した。
まず自転車で40分あまり、東へ東へと向かい、草加市の新田駅から東武線を南下、竹の塚駅のロータリーを出はずれた停留所から都営バス『北47』系統に乗った。20分ほど、千住新橋で荒川をひとまたぎする間際に、右手車窓をご覧いただくと、「鳥信」というデカイ看板が見えて感動したが、橋の欄干より下に位置するため、店先の様子はわからない。ともあれ、千住2丁目で下車し、冬用の帽子をかぶって来たことに大後悔しながら(暑い暑い)、看板のあった地点に戻り、このお店どころか土地勘もゼロなのに、勝手知ったるような態度で中に入り込み、店主のおじさんが何かしているのを一瞥し、店内の成鳥をチェックし(十姉妹多し。文鳥はほぼゼロ)、中二階のような場所に鳥カゴが並んでいる面白い店内の様子を少し気にしてから、おじさんの横の台に近づく、衣装ケースのような育雛ケース(GB社の多目的ケース『AMC-N』)がいくつも並んでいて、上に紙を置いて目隠しされているので中は見えないものの、中身は文鳥その他のヒナであるのは明らかに思えたからだ。
白文鳥のヒナを欲しい旨、愛想の良い商人タイプとは違い、古くからの小鳥屋の店主に多そうなタイプ、有り体に言えば正しく「トリキチ」の印象を受ける店主に伝えたところ、すぐに反応は無かったが、何らかの作業に一区切りつけ、アワ玉に何か混ぜ合わせて給餌用のエサを作ってから、台のケースから1つを取り出して、覆いを除けてくれた。その中には、白を最大勢力に、桜・シナモン・シルバー各種数羽ずつのヒナヒナがひしめき合っており、実に久々に見る壮観であった。しかも、それらのヒナヒナたちは、みな羽毛がさやに収まった状態の孵化3週間未満で均質であった。つまり、実にこまめにヒナの入店情報をインターネットで公開しているこのお店では、それをチェックする愛好家がかなりいて、売れ残りがほとんど無いのだろう。何しろ、普通は多少とも売れ残るので、やや大きくなったヒナは別にしたり、さらに大きくなれば、「手乗りくずれ」の成鳥、つまり売れ残りとして在庫処分の扱いを受けたり、手に乗せて遊ぶようなコンパニオンバードとしての「訓練」を施して、逆に、高価に売られている文鳥がいるのが、世の常なのである。
ともあれ、ぱっと開けた途端に首を上げて口を開けた白文鳥のヒナの姿が印象的だったので、すぐに「それ!」と指さした。このように、ほとんど間髪を入れずに選んでしまえば、何も考えていないように思われるだろうが、案外、一瞬でいろいろ見ている。やや小柄で目が大きいヒナで、背中にそこそこに有色羽毛があり、白文鳥ヒナの被写体として絶好に思えたのである。
店主は、頼まれもしないのに、そのヒナと他2羽の白文鳥を、小さな容器(升箱)へ移し、給餌を始めた。エサの与え方を見せ、また食べ方により、それぞれの特徴を観察させ、選択の参考とさせる、実に真っ当な配慮に相違ないのだが(特に説明はない)、私にとっては余計なだけで、むしろ止めてほしいくらいであった。なぜ止めて欲しいかと言えば、ウチのエサの方が、栄養的に優れているに決まっていると信じているので、空腹な状態の方が、すぐに食べさせられて好都合だからである。もちろん、満腹にして売るのがセオリーなので(給餌がうまくできないケースが多い)、そうは言わずに、わりに愛想よく様子を見ていた。
かくするうちに、店主が、どれかわからなくなった、といった事をつぶやいたので、「この子」と指さす。1羽だけ目がぱっちりと開いているので、目をつけた当人にはわかりやすいのである。そうとわかれば、それを満腹状態にせずにはおかない気配だったので、カバンから用意しておいた運搬用のケースを取り出し、フタを開けてこれに入れるように、と促した。
やたらと用意周到で、他には何も買わないぞ、といった態度の嫌な客だが、立場上止むを得ぬところだ。もちろん、フゴも升箱もプラケースも持っているのだが、カバンに入れやすく、運搬時の振動でヒナがひっくり返ったりしないためには、と考えての結論が、100均の小さなタッパにドリルで空気穴を開け、中にティッシュペーパーを敷き、それに潜り込ませた状態で、それをカバンの中の使い捨てカイロの上にタオルを敷いた上に置いて、周囲を別のタオルで固定し、それを肩掛けにして持ち運ぶ。だったのである。なお、自転車での移動では、振動が要注意で、タイヤの衝撃が直に伝わる前カゴに置くのは危険に過ぎるが、肩掛けや背負いの状態なら、人体が振動を吸収するので、安眠が脅かされる程度で済むかと思う。
会計して、確認書類にサインして(愛知県産で推定孵化日が3月7日となっている。つまり、孵化17日目だが、見た目の判断では18日目なので、矛盾はないと言える)、飼い方のペーパーをもらって(「んなもんいらねー」とは言わないのが大人の約束事である)、一目散に北千住駅へ向かい(徒歩10分程度)、東武線を北上して新田、ササッと夕飯の買い物をして、さらに自転車を飛ばして家に帰り着いたのは、1時間10分後であった。ヒナ君は・・・、テッシュペーパーをめくると、無事であった↓。
体重は17グラム。やはり、慣れない環境で食は細かったが、それでもいくらかは食べてくれた。明日からは、盛大に食べて、どんどん大きくなってもらいたい。名前は、当然、『ノブ』。今後の活躍に期待したい。