第35話 最後の聖戦 その2.
再びサタナエルが私から少し離れた場所で拳を振ると、それと同時に私に強い衝撃が加わる。 何!?この攻撃・・・・サタナエルが拳をふると、それと同じような衝撃が・・・・ そう、サタナエルが右から左に拳を振りきると、私の体には同じように、右から強い衝撃が加わり、サタナエルが下から拳を振り上げると、下から突き上げるような衝撃が私に加わる。 あ、そうか!そういう事なんだ!攻撃の来る方向さえ分かれば、一撃の攻撃じたいはそこまで強くないから、簡単に受けれそうだよ! 私は不敵に笑いながら拳を振るうサタナエルの腕の動きに注目した。 あ、今度は正面から攻撃がきそうな挙動だよ。 マルミアドワーズの腹を前に向け、それを自身の前に突き出すと、そこにキーン!と音を立ててサタナエルからの攻撃が突き刺さった。 やっぱりそうだよ!うん、理屈さえ分かれば、もうこの攻撃も怖くないよ! サタナエルの攻撃をマルミアドワーズで受けつつ間合いを詰めると、私はマルミアドワーズへ力を集中させていく。 「いっくよぉおおおおおお!ギガ・スラッシュ!!」 全力で横に振りぬくと、ゴゥ!と、凄く大きな風きり音を立て、そしてそのマルミアドワーズの軌跡は稲妻でも走ったかのように光り輝いた。 攻撃を受けたサタナエルは、傷口から血をポタポタと滴らせ、そして苦痛に顔をゆがませ、私の方へキッと視線を向けてきた。 「貴様・・よくも我に・・よくも我に傷を!許さんぞ!!」 私を睨みつけてきたサタナエルの瞳が怪しく光ったと思ったら、急に私の体の自由が奪われた。 「えっ!?な、何、何なの!?」 「ふはははは、我を怒らせた事を後悔するがいい」 笑いながらサタナエルが開いた右手を自身の前に突き出すと、私の体はそれに合わせるようにふわりと宙空に浮かびあがった。 「嬲り殺してくれるわ」 サタナエルが右手を前に強く突き出すと、宙に浮いた私の体は物凄い勢いで後方に飛び、そして私が入ってきたこの広間の扉に強く打ちつけられた。 次にサタナエルが右手を上にあげると、私の体は上に上がり、そして天上に強く打ち付けられる。 「うぅ・・」 サタナエルからのこの攻撃に私はなすすべもなく、何度も何度も、壁や天井、床に強く叩きつけられる。 私が苦悶の表情を浮かべてると、サタナエルはそんな私を見てさも楽しそうに笑いだし、そして自身の前まで私の体をひきよせると、その場にドサリと、降ろし見下ろしてきた。 うぅ・・まさか、ここまで力の差があったなんて……このままじゃ、やられちゃうよ・・・・ 「ふん、オーディンに認められたと言っても、所詮はこの程度か。そろそろ飽きてきたな」 サタナエルが再び私の体を浮かび上がらせようとした時。 ダン! 強く広間の扉が開けられ、そっちに地べたに這いつくばったまま顔だけを向けると、そこにはミハイル・クレッシル・アセトの姿。 「セラ!?だ、大丈夫か!」 「あれがサタナエル・・ですの」 「セラ、今援護いたします!」 「虫けらがもう3匹、死にに来たか」 「み、みん・・な……」 ミハイル達がサタナエルへ攻撃をしかけるも、それは全くかすりもせず、逆にミハイル達は一方的にサタナエルにいいように攻撃を受け、ダメージを負っていく。 さっきまでに受けたダメージが大きすぎて、私は攻撃を受けるミハイル達をただそこで見る事しか出来なかった・・ 悲痛な声を上げながらやられていく仲間たち・・その姿に私の内にはだんだんと恐怖心が沸き起こり、そしていつしか私の心をその恐怖心が覆い尽くした。 ミハイル達も、私と同じように全身ボロボロとなって倒れ、顔を上げてサタナエルの方を見つめる。 「く、うぅ・・まさか、サタナエルがこれほどとは・・」 「流石に魔王・・だな、私達が束になっても・・全く相手にならねぇ」 「こ、このまま、わたくし達はやられてしまうんですわね・・」 今私達のいるこの広間を絶望という二文字が覆い尽くし、そして支配していく。 「ふん、話にならんな。そろそろ死んでもらうぞ」 そう呟いてからサタナエルが私達の体を再び空中へ浮かびあがらせた時だった。 広間一面を温かい光が包み込み、そしてその光は私達の体の内へと入っていく。 その様子を右手でひさしを作りながら驚愕の表情を浮かべ見守るサタナエル。 何か凄く温かい・・そして、懐かしい光だよ。その光を受けた私達の頭の中に直接語りかける、優しい声。 「我等、かつて七大英雄と呼ばれた天上人の血を引きし者達よ、諦めてはダメだ。今こそその力を合わせる時、だが、今のお前達ではサタナエルに勝つことも出来ぬだろう。少しの間我等の力を貸そう、そしてその力を持ちサタナエルを倒すのだ」 ボロボロとなっていた私達の体の傷がいえ、そして今まで感じたこともない程の聖なる力をその身から感じる。 ミハイル・クレッシル・アセトの背中から白く大きな翼が生え、そして私の背中からはひときわ大きな白い片翼の翼が生えてきた。 何だか不思議な感じ・・自分の体なのに、そうじゃないような気がするよ。 それに、さっきまで恐怖心で一杯だったのに、今は逆に絶対の自信が心の中を満たしてくれる。 広間を覆い尽くしていた光が収まり、私達がふわりとその場に降り立つと、サタナエルはひどく脅えた表情を浮かべながら私達を見てきていた。 「ま、まさか・・このようなことが・・」 「さっきはよくもやってくれましたね、サタナエル」 「凄く痛かったですわよ。死ぬかと思いましたわ」 「やられた分は、きっちりお返ししてやらねぇとな」 「サタナエル、今こそ無へと還る時だよ」 私達は、鋭い眼差しでサタナエルを睨みつけ、それぞれ武器を持ち構え、そしてサタナエルへ正真正銘最後の戦いを挑んだ。 第35話 最後の聖戦 その2.終わり 最終話 妹勇者の帰還 その1.へ続く