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テーマ:言語について(33)
カテゴリ:ことば
ブラジルから日本に留学した日系3世の大学生がいた。日本語はあまり上手ではなかった。1年の留学を終えて帰国した彼女は、なにを思ったのか、突然英語の勉強を始めた。
日本人であるおじいちゃん・おばあちゃんは、日本語がペラペラになって帰国する孫を期待していた。たしかに日本語も上手になっていた。が、英語のほうがもっと上手になっていたのだ。そしてさらに英語を勉強すると言う。家族は不思議がった。 彼女の話はこうだ。日本に留学するまで、英語は嫌いだった。日本語は子どものころから耳にしていたから、留学すればきっとうまくなるだろう、そうすれば就職に有利だ。そう思って日本に行った。日本の大学にはアジアやアフリカからの留学生がたくさんいた。みんな英語は外国語だけれど、英語で話をした。自分の英語がこんなに通じるなんて思っていなかった。しかも彼女は日本語がけっこう解るので、みんなに頼られた。うれしかった。留学生がいる所では、日本人の学生も英語で話していた。みんな英語は下手だったけど、とても楽しかった。「英語ができれば、世界と話ができる。」そう思った。だからブラジルにもどって英語の勉強を始めたと言うのだ。 言葉が通じるというのは、とても嬉しいことだ。しかも、その言葉を使って人を喜ばせることができれば、もっと嬉しい。アジアやアフリカからの留学生が、彼女の耳の蓋をはずしてくれたのだ。 どうだろう。英語を勉強するなら、日本に留学するのではなくて、アメリカに行けばよかったのだろうか。中国人やインド人や日本人の訛りのある英語ばかり聴いてきたのは、かえってマイナスだったのだろうか。そんなことはない。英語は彼女に、日本という別の国で微笑んだのだ。 多くの人は、英語を勉強するにあたって、本場の英語を聞かないといけないと思っている。子どもにも、ネイティブの正しい(?)英語を聞かせるべきだと信じて疑わない。下手な英語を聞かせると発音が悪くなるから日本人の英語は聞かせてはいけないと思っている人さえいる。そうだろうか。 小さい子どもにとって、会ったことも無い異国の人がテレビの中で話す正しい英語と、お母さんがお隣の中国人とニコニコと話している下手な英語と、どちらが生きているか。難しい顔をして "Repeat after me." と言うネイティブの先生の美しい英語と、ウガンダの留学生と楽しそうに飲んでいるお父さんのあやしげな英語と、どっちが生きているか。幼い心が「楽しそうだな、何を話しているんだろう、知りたいな~」と思うのは、どちらなのか。 そして、小さい子どもに限ったことではないのは、考えてみればすぐわかることだ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2005年01月26日 22時42分25秒
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