あらすじ
悠介は、長野県安曇野の隣、池田町に産まれ、長野高校に進学した。2年の春、写真部の新入生歓迎撮影会で、小平由樹枝に会う。その後、恋人関係になる。3年の夏休み、北海道無銭旅行を遂行。大学の推薦が決まった後、上高地へ出かけ二人は結ばれる。実力試しに受験したW大学に合格するも、M大学に進学する。そして1年が過ぎた。春休み、希望大学に合格した由樹枝が東京に来て、短いが二人の充実した同棲生活を送った。しかし、そのわずか1週間後、矢代美恵子と関係してしまった。
写真はネットより借用
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悠介はこの打開策を美恵子を紹介した北村に相談することにした。近頃バイトに来ていないと言うので、社長に伝言を頼んだ。「相談したいことがあるので会って貰いたい。」と。
駿河台キャンパスのベンチで北村と矢代美恵子が座っている。
「どうした、寺本とうまくいってないのか? この前聞いた時は、ばっちりだと言っていたじゃーないか?」
「どうして? そんな話聞いた?」
「寺本から相談したいことがあると言って来た。きっと君の事だろうと思って、話を聞いてから会おうとしているんだ。」
「まぁ、落ち込みが激しいのよ。あまり食べないし、痩せて来たみたい。」
「そうなのか? 一緒に住んでいるのだろう?」
「住んでいるけど、前の娘が忘れられないようなのよ。私が手紙を出して、その娘には引導を渡したのだけどね。」
「小平とか言っていたな、その娘は。一度会ったけど、綺麗な娘だったよ。しかし、君と一緒に暮らしたら、忘れると思ったけどな。」
「意外と純情で頑固見たい。」
「困ったな。」
「別れてくれ、出て行ってくれと、今も言われているのよ。」
「あっちの方は、やっているんだろう?」
「そっちの方は、やっている。若いからね、気持ちと身体は別でしょう。」
「君はどうしたいんだい?」
「このまま暮らしても良いけど、仲々、こちらを向いてくれないから、ちょっと疲れて来たよ。」
二人の話は続いている。実は、北村は、良い学生がいないかと美恵子から相談を受けて、寺本を紹介しようと言う事になったのである。彼が飲むと意識不明になるのでそれを利用しようと北村の書いた筋書きだったのだ。新入生歓迎会で、美恵子と悠介を会わせた。途中、美恵子に確認すると私の好みよ、と言う事で筋書き通り実行しようと、二人で飲ませたのである。
「寺本と会ったら、何といえば良いかな?」
「う~ん、困ったよ。いい子なのよ、純真で。私も好きになっているし・・・」
「じゃー、別れるな!って言うかな?同棲しているのに、別れるのはおかしい、って言うのは、不自然ではないし、経緯からしても彼に拒否権はない。」
「そう言う筋書きだけど、なんだか可哀そうなのよ。」
「情が移って来たか?」
「まぁね、毎日一緒にいるのだからさー。」
「それでも別れたいと言ったらどうする?」
「そうねー、お金で解決するかな? 今、追い出されたら行く所ないし困ってしまうよ。バイトで稼いだお金を結構、持っているみたい。」
「そうだろう、あいつ、真面目に1年以上働いているからな。遊んでもいないようだし、結構溜めているだろう。」
「でも、別れなくて良いなら、そっちの方向で話してね?」
「分かった。小平とかが忘れられないなら、そこを無理してまで一緒にいるのもどうかと思うけど、とにかく話してみるよ。」
由樹枝は、悠介から3度手紙を貰ったが、返事を出していない。別れたと言う話もなく、同棲が続いているようだし、一番好きだ、愛していると言われても信用できない。あれだけ信頼しあっていたのが信じられない。2ヶ月近く経って、心を絞られるような苦しさも減っている。その間、バドミントンに打ち込んでいた。ようやく悠介なしでも生活できると思うようになっていたのである。
始めの頃は、苦しくて苦しくて、涙が止めどなく流れるし、どうして? どうして? と思いつめ、悠介に直接聞きたい、話したいと思っていた。その時期を過ぎたら、心が虚ろになって何もしたくない期間になった。バドミントンには出かけていたが、心ここにないと言う感じで真剣になれなかった。もう悠介と話したい気持ちはなくなっていたが、寂しさを乗り越えられない。それが、つい数日前より、吹っ切れたと言うか、もういいや、と思えるようになった。ここまで来るのに、2ヶ月を要したのである。
6月下旬、北村から満腹食堂で会おうと言って来た。しかし、悠介は満腹食堂の知人が沢山いる中で、話をしたくなかった。言いたいことが言えないと思ったのだ。行ったことのない食堂や茶店も沢山ある。北村と一緒に食べたいとも思わないので、茶店へ行くことでお願いした。
「どうした?」
北村が何食わぬ顔で、悠介に聞いた。
「矢代美恵子さんの事です。」
「あー、同棲しているらしいな? 結婚でもするのか?」
「とんでもないです。彼女にアパートから出て行って欲しいのですが、出て行かないのですよ。」
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