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眠りの底で

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2008.05.26
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               台風
                  

           「さんぺぇにい」 

           一度目は 大切な言葉を そっとささやくように。

           「さんぺぇにぃ」

           二度目は いとおしいものを からかうように。

           鋭どくみえた ひとみが いたずらっぽく動く。

           怖くなくなった。

           変わりに なにか 形にならないものが胸にこみ上げて やっぱり声がだせない。

           それは 言った。

           「知ってたよ。 さんぺぇ兄が 山からの預かりっ子だって。

            あたしが卵にひびいれて そろそろ生まれようかと薄目で外をうかがった時に

            大カラスが  さんぺぇ兄 を 運んできたんだ。

            カラスは ひび割れからあたしをのぞいて言ったよ。

            おまえは 二度この子を助け この子もおまえを二度助けるって。

            にぃが消えてから もう一度会う日があるはずだって 待っていた。

            にぃをこの木からおろしてあげる。 これがあたしの二度目」


            それは そっと ぼくを 抱きかかえた。

            なつかしい匂いに 包まれた。 草や風や川に包まれるような。

            うっとりと目を閉じている間に 橋についた。

            それは ぼくを橋に立たせて 言った。

            「今度は にぃが あたしたちを助けてくれる番だよ」

            翼を 広げて 山へ 帰って行った。

            ばさばさ ばさ 羽音が遠くなって行った。

            ざわざわ ざわ 山が鳴っていた。

            ざわざわ ざわ ぼくの胸が 共鳴した。 


            ざわ ざわ ざわ 

            胸が 鳴り止まない。

    

            ざわ ざわ ざわ    ざわ ざわ ざわ ・・・





          エピローグ 



           「かーちゃん さんぺぇが消えた」 と モエギが泣く。

           「さんぺぇと 遊びたい」 と アサギもべそをかく。

           若葉は 空を見上げて  大きく 息を吐いた。
 
           それから わが子たちに向かって

           「さんぺぇ に また 会いたい?」

           わが子たちは そろってうなずく。

           「だったら 川の神さんにお願いしてごらん」

           「かーちゃん お願いしたことあるの?」 と モエギ。
        
           「ええ。 大切な友達に もういちど会わせてくださいって」
        
           「お願いしたら かなった?」 とアサギ。

           「かなったわ」
  
           聞くなり モエギとアサギは 川へ潜った。

           川底にひたいをつけて 川の神に 祈った。



             また さんぺぇと 川流れ できますように

             また さんぺぇと イワナ獲り できますように

             また さんぺぇ と 会えますように



           9507327_v1211616449.jpg
      
                  

             台風 写真byげこる「げこるでつくる」




              ガシャ・ポン  天狗編  完    
          






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Last updated  2008.05.26 05:52:48
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