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カテゴリ:【物語】桃花幻想記:秘密の小瓶
桃源郷:秘密の小瓶 3 ~蕎麦~ 山間に日が沈み、茜色の夕焼けが空を照らし始めた頃、 家の中の片づけがやっとこ、ひと段落しました。 「ずいぶん、おもいきりましたね」 処分してしまうリンの私物を見て、竹林の庵から 戻ってきた通鷹が言いました。 通鷹は通鷹で、自分の私物を整理していたのです。 「夕飯軽くでいいかな?」 張り切りすぎて疲れたリンが、へらりと笑います。 通鷹はくすりと笑って、それならとリンを竹林の庵へと 続く扉へと手をひきます。 リンの家の勝手口と通鷹の家の使っていない古い、 納戸を自由に出入りできるように、術でつないでしまったのです。 取り付けたばかりの頃は、扉を開ければすぐに通鷹の家に 行くことができたので、とても嬉しかったのを覚えています。 「おそばでもどうですか?」 納戸の扉をとおり、襖を開けると、ちゃぶ台の上に二人分のどんぶりが 置いてあるのがみえました。 ほかほかと白い湯気と柚子の香ばしい香りがリンの鼻を くすぐって、ぐうと大きくお腹がなります。 「ありがとう」 照れたように笑って、二人でちゃぶ台に座り、 箸を取った時、縁側の方から楽しそうな声が聞こえました。 「美味しそうね」 振り返って縁側をみると、開け放した障子の前で、 美しい黒髪の女性が立っていました。 シルバーのロングドレスが、残照にあたって にぶく光ります。 ずいぶん前に、通鷹に小瓶を渡した美しい女性だという ことに気づくのに、時間はいりませんでした。 つづく お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2011.12.17 09:12:13
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