過去数回の授業は、「環境対策をすれば企業のコスト競争力は高まるはずじゃ」と言うマイケル・ポーターの論文を読み、「環境に関するベネフィットとコストをGDPなどの経済指標の計算に織り込むことが、人々の環境への意識を高める第一歩だ」、と説くノーベル賞を取った経済学者の論文を読んだりして、割と説話的な内容だった。
これらを読みこんだ総括として、教授が下のようなフレームワークを示した。
まず、下の図みたいに、環境対策が、企業レベルで価値を産むかどうか、徹底的に考えてみる。
(まあ、答えを出すのは困難なことが多いが)
で、どうしても企業レベルでは価値を産まない、つまり、”Private Cost”をかけてるのに、あまり”Private Goods”は産まず、”Public Goods”ばかり産んでる、みたいな環境対策については、
“Collective Action”(いいことを一人でやってる人が損しないように、みんなでやろう!という動き)を取る必要がある。
それは、政府が規制をかけて「みんなで環境対策せよ!」と命じることかもしれないし、「Equator Principle」みたいな業界で自発的に環境にやさしい行動原則を定めたりすることなのかもしれない。
こうやって、“Collective Action”を作っていくプロセスで、どういうリーダーシップを取るかによって、企業の競争力が左右される(つまり、自分にとって都合のよろしいcollective actionを作るよう動け、ってことすか)。
だから、政府に対する影響力を持つことは意義があるし、環境に関する理系的な詳細情報を持っておくことも発言力を強めることに役立つかもよ。
ってな話しだった。
うーん、まあ、企業が環境対策を考える筋道としては、結構整理されているのかもしれない。
* * *
で、今日は、久しぶりに現実のケースに戻って、ディスカッション。
お題は、シェブロンというアメリカの石油会社が、環境対策への投資をする際に使っているコスト・ベネフィット分析について、どう思うかをディスカッションせよ。
環境対策に今かかっちゃうコストと、将来生み出されるベネフィットの現在価値を比べて、後者が前者より大きければ、環境対策やろーぜ、みたいな。
いろんな批判や、改善案などが出てきてなかなかおもしろかったのだけど、ふとこんなことを考えてしまった。
(ディスカッションの内容とあまりにあわなそうだったので、あえて発言しなかったんだけど。。。)
将来発生する環境にいいこと(ベネフィット)って、本当に割引率で現在価値に割り引いちゃってよいの?
ファイナンスの世界で生きてきた人間にとって、今日の100円は、10年後に100円より大きくなる、というコンセプトは、基本中の基本です(「地球は丸い」、に近いレベルで定説です)。
なぜなら、銀行に100円入れておいたら、自動的に利子がついて、10年後は100円より大きくなるから。
逆に言うと、10年後の100円は、今日の価値に直すと100円よりも小さい。
でもさ、これって環境に関するベネフィットについてもいえるのかしら?
たとえば、今100ヘクタールの森林を守ったとすると、その森林って、10年後に100ヘクタールよりも大きくなってるのかしら?
あるいは、今オゾンホールに半径10cmの穴を開けたとしたら、その穴って、10年後に今よりも大きくなってるのかしら?
もちろん将来にわたって、植林するとか、フロンガスを出し続ける、とかやれば、大きくなるけど、そういう要因がなく、自動的に森や穴が大きくなるってことにはならないんじゃないかなあ?
そうすると、将来のベネフィットだからといって、今の価値は小さいぜ、なんていうことはできないのではないかしら?
つまり、将来起こる環境への影響って、割引率で小さくならずに、将来価値のまま、現在にのしかかってくるのではないかしら?
(まあ、将来影響を受けるのは、僕たちの子孫だから、どうでもいいや、みたいな話をしだすと議論が変わるけど。。。)
そうやって、将来の痛みをそのまま現在にのしかけちゃうと、環境対策のコストとベネフィットに基づくNPVが大きく変わってきて、環境対策に関する意思決定って結構変わってくるのでは、と思うんだけど。
その辺、環境の専門家はどうやって考えてるんだろう。
まあ、こんな考えなんて単なるBS(牛糞)かもしれないけど、ちょっと聞いてみたいところです。