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2015.08.07
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カテゴリ:江戸珍臭奇譚 
囲碁.jpg

 深川熊川町は南が隅田川、北と東を堀に囲まれた、橋を渡らなければ行けない、閉鎖された小島のようなところだっので、誰もが顔馴染みで江戸の中でも人情の厚い町だった。その熊井町にある裏長屋、宗兵衛長屋にお絹とお梅は住んでいた。
 向こう三軒両隣、音は筒抜け、うっかり屁もできぬ、何でもお見通し、夜のまぐあい遠慮せず、おせっかいなのか、助け合っているのか、他人のうちにも土足で入る、みんな親戚のような賑やかさ。
 大工に船頭、拇手振りの金魚屋、蕎麦屋、ところてん売りに駕籠かき、と、雑多な人間が集まっているが、この辺りの長屋で暮らすのは、みな、すっかんぴんの貧乏人、あっけらかんとして、明日のことなどどこ吹く風、爽やかな諦めなのか、何がきたって恐かあねえよ、いう明るさがあった。

 その熊川町の宗兵衛長屋の入り口横の自身番で、見廻り同心真壁平四朗と、手習い師匠の柳井文吾が難しい顔をして囲碁盤で向かい合っていた。二人は囲碁の好敵手だった。同心真壁平四朗は寝ても覚めても囲碁、囲碁、囲碁、障子の格子までが碁盤に見える、囲碁狂いの八丁堀と呼ばれているほどである。
 深川の見廻り同心である真壁平四朗はあちこちの自身番や湯屋、往来や店先の縁台、で碁を打つ。御家人や旗本屋敷に呼ばれて、碁の相手をすることもあった。
 30俵2人扶持の給金では同心の暮らし向きが立たず、傘張り、提灯張り、竹細工などの手内職をしたり、金魚を育てたり、野菜を作ったりしてみな同心たちは凌いでいたが、真壁平四朗の場合は市井の動向を探るために囲碁を打つのだと、上司の与力新藤啓之介に言い訳をして、実は囲碁が内職だった。賭け碁をして稼いでいたのである。

 真壁平四朗が手習い師匠の柳井文吾に囲碁で五目差で負け、悔しがって、「もう一番」と石を握った時、自身番にと大家(差配人)の宗兵衛がやってきた。
「ああ、丁度いい所へ、八丁堀の旦那と先生がいらした、ちょいと、碁石から手を離してくだせえ」」
「どうした、事件でもおきたのか」
 面倒くさいなと云わんばかりで、見廻り同心の真壁平四朗が聞き返した。
「実は町内のお梅婆さんのことなんだが、、、」
「なんだ、あのさせ女がどうかしたのか」
「いや、もう長患いで、医者にも見放されてるんですがね、なにしろあの粋でならした深川芸者の梅吉姉さんが、お岩さんのように、顔といわず、手も、躰も腐ってくる病気ですよ。この頃は躰から異臭がでて、臭いの臭くないのって、長屋中に腐った臭いが立ち込めて、こんなとこには住めねえよ、というわけで、今朝、手間取り大工の弥助一家が引っ越していきましてね、他の者までこのままじゃ住めねえ、鼻が千切れそうだ、何とかしてくれ、なんてぬかしやがって、だからってねえ、何処に住もうとかってなこと、誰にも止められないし、長屋ががら空きになっちまえば、糞も減るし、こっちのおまんま食い上げだし、さあ、どうしたらいいのか、八方塞り、ぺしゃんこになりそうだ、どうしたらいいだろうか、囲碁の旦那」
「かっての婀娜な姿の梅吉姉さんがねえ、世は流転だね。随分と男を咥えたって言うじゃねえか、宗兵衛の旦那も世話になった口じゃねえのかい、、、んんんっ、良い手が浮かばねえな、なあ、先生」

「囲碁じゃありませんよ旦那、それにね、可哀そうなのは、お絹の方なんですよ。いま流行りの越中褌で稼ぎはいいらしいんだが、日本橋の薬種問屋ので高価な長命寿丸薬とかいう薬を飲ませていて、自分じゃ粗末に暮らしてるんですよ。そいでね、ほら、腕ききの箪笥を作らせちゃ右に出るものがいねえという、指物師の幸助という色男といい仲になってるんだが、なにしろあの婆さん抱えてるんじゃ一緒にもなれない、そりゃ、みてても気の毒でね、一途なお絹がいじらしくていじらしくて、このままじゃお絹まで腐ってしまいそうだ」
「死にかけの婆さんとはいえ、殺すわけにもいかねえしな、」
「なんとか、してやりてえよ、もう先のねえ、腐りそうな梅婆のために、器量良しで人の良い、お絹はまだこれから、いいことがいっぱい待っているっていううのによ、理不尽でならねえすよ、」

 宗兵衛は自分の欲から、お梅を何とかしたいと思っていたが、話しているうちに、お絹に同情していた。
「そういえば、州崎の先に、なんでも十両あれば年寄りを死ぬまで預かってくれる極楽園という姥捨島があるらしい。聞いたことがあるだろう、本所深川どころか川向うの日本橋界隈から、それも大きな声じゃ言えないが、御家人や旗本の婆さんまで預かってるという噂だ。おまけに、最後まで看取ってくれるらしい。世話がねえということで、今じゃ、江戸の年寄りのお助け所になっている。ひとつ、そこを覗きにいってみるかい、上手くいけば、渡りに船だ、一気に解決だ、じゃ、先生一局お手合わせを、、、」
 同心真壁平四朗は手下の傘屋の弥平次から聞いた極楽園の話をして、早くも碁石を握っていた。
「出口のねえ、問題だ、藁にでも縋りてえ心持だ、囲碁狂いの旦那、力を貸して下さいよ」
「わかったわかった、時期を見てその極楽園とやらへ行ってみることにしよう、だが、宗兵衛、この頼み高くつくぞ」
「わかってますよ、旦那の袖の下は重すぎやしませんか」
 世話を焼いて袖の下を貰う、これも、同心の余禄のひとつであった。ぱちんっ、真壁平四朗の黒石が碁盤の星に置かれた。

(つづく)

作:朽木一空

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最終更新日  2015.08.07 16:18:52
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