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2016.01.14
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カテゴリ:江戸珍臭奇譚 
とんび.jpg

美人が罪だとは、お釈迦様でも知るめえよ、、、、、

 豆腐のしぼり汁、滓、いらぬ者、捨てる物、おから村という名をつけたのは北町奉行の遠山影元である。そのおから村へ渡るには、霊岸島の突先の板を並べただけの橋を渡る、地面がぐにゃぐにゃと揺れて足元がおぼつかない。
 その橋を渡るとおから村と呼ばれている地虫の熊五郎が支配する無法地帯があった。でくに案内されて板橋を渡ると、異様な臭い、生臭い腐臭が体の中に染み込んでくるような気持ち悪さで、お菊はごぼっごぼっとむせ返った。
「おっ、お菊さん、だ、だから言わなこっちゃねえ、でっ、でいじょうぶかえ」
「んっ、大丈夫、なんだこんな臭いぐらい」
 お菊は強がりを言って着物の裾で鼻を隠しておから村の中へ足を進めた。掘立小屋が互いに支えあってやっと建っていて、いつ崩れてもおかしくはないあばら屋の狭間を歩く。日焼けなのか、酒焼けなのか、どの顔も浅黒く、裸同然の男たちがにやにやしながらお菊の躰をぎらぎらした卑猥な視線で嘗め回す。
 鼻や耳がそぎ落とされた男、片腕、片足の男、二の腕に二本線の入れ墨をした男、どうみてもまともな男たちとは遠い存在の人間たちだった。女もいたが、汚れた継ぎはぎの着物を着て、それでも首だけは白く塗ってまるで夜鷹の化け物に近かった。異様な人間たちの集まりのように見えたが、それにしてはやけにみんな明るい表情をしていた。にやにや、けたけた笑っていて、悩みなんぞとは無用の世界であるようだ。
「ねえちゃん、いいケツしてるねえ、たまらねえな」
「二十文でどうだい、一発やらせろや」」
 此処には、おへちゃもでぶもなかった。お菊を女とみて発情してる男たちがいる。お菊は多分初めて色欲の対象としてなめるような視線を感じて体がうずいた。卑猥で、がやがや、うるさそうな男の間をぬけて、でくと一緒に地虫の熊五郎親分のいる掘立小屋へへ案内された。

「でく、そのお方はどこの誰でえぃ」頬から顎まで髭面で頬に刀傷をつけた大男の熊五郎がどすの利いた声ででくに尋ねた。
「へいっ、熊井町の宗兵衛長屋のおひとで、真壁平四朗様さまの許しをいただきまして」
「そうけい、真壁様がねえ、ところで御人、この島で見たこと聞いたことは決して他所では話しちゃならねえよ、
それがこの島の掟よ、そいつだけは守ってもらうよ、よう、ござんすね」熊五郎の横には、このおから村には似合わない涼しい顔をした女がいた。
「さ、逆らうと、きっ、金の玉を切り落とされちまう、ち、ちん切のお吉さんだよ、あっ、お菊さんには はっ、はじめから、きっ金の玉が、なっ、ないんだね」
「でく、馬鹿なことをおいいでないよ!、あっち行ってな」

 お吉は黙ってどぶろくを口にし、長煙管から煙をぷかぷかと出しながら、頬を膨らませて、笑みを浮かべていた。お菊の心の中で「まさか!」という思いがよぎった。弟の直次郎が金玉を切られ、その切った女がちん切のお吉であったことは忘れても忘れられない。その苦労で、父は倒れたのだ。
だが、熊五郎もお吉もまさか直次郎がお菊の弟だとは感ずいてはいない。お菊が武家の出であることなど想像もつかない汚れた木綿の古着を着た
 格好の今のお菊であったからだ。お菊もそのことには触れないでおこうと思った。今日は熊五郎に貸し便屋に協力してもらうことが大事な要件だった。

 お菊は地虫の熊五郎に勧められるまま、甘酸っぱい味のするどぶろくらしき酒を口にしながら、熊五郎に貸し便屋のことを話した。
「面白れえ話だな姉さん、まあ、姉さん一杯やりな、これもおから村の名物料理だ食え食え、蝮の金玉を馬の腸で煮詰めた精力剤だ、股の下がうずうずしてくるで、ぐひゃあははは、ぐひゃあああ」
 横ではその得体のしれない煮込みの鍋がぐつぐつ煮えていて、腐ったような饐えたような、臭いが鼻の奥まで染みこんできた。そんなお菊の表情を熊五郎が面白がって見ていた。
「みんな、臭い仕事してるから、気になんねえ、こういう臭いをいつも嗅いでなけりゃ、昼間の仕事ができねえよ。」
 おから村の住人は昼間は下掃除人として町屋の厠で糞汲みの仕事を生業としていたのだった。そんな場所で、頼みごとをしている自分が、落ちるところまで落ちたのだとお菊はしみじみ感じていた。どうせ世を捨てた人間だ、こういう場所の方が私にはふさわしいんだと、居直っている自分もいた。

 ここなら、醜女もでぶもないおへちゃもない、こんな私でも歓迎してくてるじゃないの、だいたい、美女だ醜女だと、いうことは誰かと比べただけのことである。比べてなんぼの問題なんだ、そもそも美人が罪なのである、美人がいなけりゃ醜女もいない、だから、此処にはそんなものはない、私も落ちなくてもよかった。いや、こういう人たちが生活していることを知らなかった。
「ようし、一桶二十五文で手を打とう、どうだ、」
「ようござんす、よろしくおねがいします」
 話はできた。これで何処でも江戸の人の集まるところで、貸し便屋が開業できる。お菊は熊五郎の恐ろしさよりも、貸し便屋ができるうれしさことへの希望に胸が高鳴った。


(つづく)

作:朽木一空

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最終更新日  2016.01.14 11:20:16
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