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2019.05.19
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カテゴリ:小説



薄幸焼きの串差し団子を喰わえれば、ヨイヨイ
たらたらたら、地獄の蓋から穢汁が毀れてるよ、アラマア、
厭離穢土、厭離穢土、ナミアミダブツ ナミアミダブツ

 上州宇都宮梅里村、おりんの母、雪江が掃き溜めに鶴のような美人で、梅小町と評判だったことが、地獄の穴に落ちこむ因であった。その雪江に目を付けた香具師の元締めの甚五郎は今にも潰れ百姓になりそうな、雪江の親にわずか五両の金を渡し、雪江を妾にした。まだ、雪江15の歳だった。

 雪江は毎夜甚五郎に凌辱され、やがて、雪江が孕むと、小作人の留吉に孕んだまま嫁がされた。小作人の留吉は孕んでいても、別嬪の雪江と暮らせることに不満はなかったが、雪江の産んだ娘、おりんの種が甚五郎であったため、おりんを憎み、疎み、殴り蹴り、虐待した。

 飢饉の年、年貢納めのできぬ留吉は、百姓相手の小金貸しの熊五郎に、返せる当てのない借金をし、遂には田畑を取られ、三十路を過ぎてもなお妖美な美貌の母の雪江を、熊五郎に盗られ、自らは納屋で首を括った。辛苦の串差し団子の始まりであった。
 母のお雪は毎夜熊五郎のおもちゃにされ、お雪の身体の具合が悪くなると、お雪を子分どもに廻し、連日凌辱され、やがて梅毒に罹り、美貌の顔の鼻がもげ、醜く腐り、挙句狂死したのであった。

 熊五郎は泣き崩れていた十二歳のおりんを、配下の博徒、黒蜘蛛の権八に売った。母に似て、目鼻立ちのはっきりとした器量よしのおりんが権八に羽交い絞めにされ、有無を言わさず犯されたのは、権八の屋敷の下働きとなって五日後だった。
 13歳で身ごもり、河原の石で腹をうち堕胎させられた。14歳でまたも孕み、冬の川へ身を投げたが、死にきれず、川に赤い血が流れた。
 権八はそれをみても、まだ、おりんの体に覆いかぶさった。さらに、権八の息子の九助までもが犯しにきた。腐った親子丼の腐臭があった。

 おりんは苦海穢土でのたうち回っていた。躰だけではなく心もずたずたに切り裂かれていた。
ーひでえ話だが、江戸の貧農ではよくある話、罪にもならねえ話だとよー
 雪の降る夜、嫉妬に狂った権八の妻女のお豊が鎌を持って斬りつけてきた。
「お前は鬼畜女だ、愚女だ、妖魔だ、死ね!」と、鬼の形相で襲いかかってきた。おりんは無我夢中、必死で逃げた。おとよは追わない、おりんがいなくなればいいのだった。

 暗い過去から逃げれるとでも思ったのか、おりんは、昼は、廃寺の縁の下へ潜り込んで寝、夜になると足が擦り切れても、暗闇を歩いた。
 三日間歩き、武州川越へ辿り着いたが、人別帳もない無宿者では、働くところも、住む場所もない。
 「仕事有り、下男下女」という口入屋(職業斡旋屋)の看板につられて店の暖簾を潜る。だが、口入屋孫兵衛はこれはと思う女は騙して、岡場所へ売り飛ばす女衒まがいの悪だった。
 おりんの姿は顔も髪も、手足も泥だらけ、着物も臭く、とても見られたものではなかったが、女衒の孫兵衛の眼は素人ではない。
 色白、きめ細やかな肌、おちょぼ口で鼻筋が通り、豊かな黒髪、涼しい目元、うりざね顔のおりんの器量を見ぬいていた。
 ---磨けば、上物に化けそうだ、いい値で売れそうだな---

 おりんは風呂場で磨かれ、髪を結い、白粉を塗り、紅を引き、綺麗な着物を着せられ、三日間、店の奥間で過ごし、孫兵衛が一晩おりんに覆いかぶさった翌日、善通寺参道横の『いろは店』に年季のない一生廓つとめの条件で五十両の高値で売られた。
 結局、逃げても身を隠すのは女郎しかなかったのだ。何のために川越まで逃げてきたのか。暗鬱な宿運を呪った。おりんは笑みを漏らすことのない暗い遊女になった。男を咥えても愛想がないと、やりて婆に叱られた。
 『いろは店』には、様々な男がやってきて、女の狭間で男の精を爆発させていった。商家の番頭から丁稚、旅芸人、中間、下級武士、職人、寺の坊主、浪人、博徒、手習いの師匠、おりんは、そんな男たちの話しから、まだ見ぬ世間を垣間見た。

 おりんの隣部屋に風葉(カザハ)という女郎がいた。暗い冷たい眼をした女で、人気もなく、あまり客がつかない。十日に一度の間隔で、重蔵という四十絡みの男が訪ねてきては、寝るでもなく、ひそひそと話をして帰る。不思議な女であった。
 その風葉が、どぶの中をもがいているような生き様に同情したのか、おりんに心を許し、客のいない暇な時間におりんの部屋にきては世話を焼いた。

 ーあたいは女忍者、忍者でも下の下、下忍なのー
 女は狐目の風葉(カザハ)と呼ばれた女忍者だった。忍者といえば、なんだか格好もいいが、乱波(甲州忍者)のなれの果て、忍者が活躍できたのは遠い昔の話、天下泰平、平穏な江戸の時代では、どこの大名からも声がかからず、幕府お抱えのお庭番(隠密)以外の忍者は無用の長物だった。武田家滅亡の後、闇に生きる乱波(甲州忍者)は、武士、商人、百姓でもなく、身分もなく、陰に隠れ、風のように生きていた。

 その風葉からおりんが教えてもらったのは、くノ一(女忍者)の床術として、男を喜ばせ、とろけさせ、男を夢中にさせる床技、男の放出を自由に加減する秘技、男がいざ、闖入という時、微妙な手の動きで股をまさぐる、たいていの男はそこで果てる。手淫の術。男のあしらい方の手練手管、遊里の色道のいろはを教わった。
 おりんが風葉の話で、もっともためになったことは、梅毒を防ぐ塗り薬をもらい、避妊術を教えてもらったことだった。おりんは、母が鼻がもげ躰が腐って狂死した梅毒が怖かった。
 現に『いろは店』の遊女は三十路前(みそじまえ)に病気になって死んだものが多かったのである。孕むことも二度の地獄の辛酸を舐めていたので恐れていた。
 おりんは、風葉にどんどん引き込まれていく自分を感じていた。
 ーーそれが、女忍者風葉の奸略だともしらずに、、、、ーー

(つづく)
作:朽木一空

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最終更新日  2019.05.19 16:20:29
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