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2024.03.10
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カテゴリ:小説

 いつの間にか冬になり、ぼくの高校受験が近づいてきた。ぼくは偏差値が学区の中では真ん中よりも少し下だった都立K高校を志望していたのだが、急に担任に呼ばれて「K高校は無理だから別の高校に変更しなさい」と忠告されてしまった。K高校は新設校で校舎が綺麗なため、人気がうなぎ登りして競争率が都立でトップクラスに跳ね上がったと言うのだ。
 だがぼくはどうしてもK高校を諦めきれない。それで担任には「志望校は替えたくない」と反発したのである。ぼくの固い決意を理解した担任は「それでは何処か滑り止めに私立高も受験しなさい」と言う。それでぼくは両親に相談することになる。
 親父は実家が貧しく尋常小学校しか出ていないので、高校のことを相談しても的確な回答はなく、「商売人なのだから大学も不要だし商業高校のほうがよいのでは」というくらいの発想しか持ち合わせていない。むしろ人付き合いの良い母のほうが耳学問だが、ある程度の認識と理解力があった。それで渋る親父を説得し、私立高校受験を認めてくれたのである。

 それまで全く受験準備をせず、模擬試験では不合格点の連続だったぼくも、さすがにこのままではダメだと気付き始めた。それで書店に出向き、「旺文社の科目別要点整理」というカラー刷りの参考書を購入し、冬休み中は店の手伝いもパスして無我夢中で暗記三昧に明け暮れた。
 もちろん数学や英語は、付け焼刃の暗記ではどうにもならない。だから先に滑り止めで受験した私立高校の入試のほうが自信がなかった。つまり都立高校は国語、社会、数学、英語、理科、音楽、美術、保健体育、技術・家庭の9科目だが、私立高校は国語、数学、英語の3科目だけで、どうにもならない数学と英語がでかい顔をしているからである。

 滑り止めで受験したG学院大学付属高校は、新宿にある理科系大学の付属高校で、大学までエレベーター方式で進学できる裕福家庭の男子校であった。館内にはボーリング施設もあり、ボーリング部、自動車部などのクラブ活動も盛んだと言う。
 ところで裕福な家庭でもなく、理科系大嫌い人間なのに、なぜこの私立校を選んだのかと言われそうだが、その理由は単純である。僕と同じく本命は都立K高校だという親友のM君が、滑り止めに選んだ私立校と同じ高校を選んだだけであった。
 ただ彼の家は旋盤工場を経営しており、少なくともぼくの家より裕福だし理科系も納得できるのだが、ぼくの選択(正確には母の選択かも)は全くの思いつきに過ぎない。
 案の定、得意の国語はまあまあだったものの、数学と英語はほぼ全滅だったので多分ダメだろうと思いながらも、G学院大学付属高校の合格発表の日を待つことにした。

 雪の落ちてきそうな寒い日である。ぼくはひとりで中央線に乗り新宿へ向かった。今日はG学院大学付属高校の合格発表の日だが、全く期待していないくせに気もそぞろである。
 大勢の親子連れがぞろぞろと体育館に向かってゆく。そして誰もが白い壁に大きく張り出されている合格番号を舐めるようになぞり、大喜びで跳ね上がったり、ガッカリと肩を落としてうつむいている。
 どうせダメだと諦めていたのだが、なんとそこにはぼくの受験番号も記載されているではないか。間違いではないかと何度も確認したが、どうやら本当に受かっていたのである。思わずぼくはほくそ笑んでしまう……。
 そのとき静かに僕の肩を撫でる人がいた。驚いて振り向くと、そこには最近見たことのない笑顔をこぼしている親父が立っていたのである。そして嬉しそうな声で「おめでとう」と呟きながら薄っすらと涙をにじませていた。

 またよく見ると背中に大きな荷物を背負っているではないか。なんと重病の身でありながら、せっかく新宿まで来たのだから、現金問屋で菓子を仕入れてきたと言うのである。こんな時でも商売のことが忘れられないのだ。
 ぼくはやせ細った親父の背中から荷物を降ろし、代わりに担ぐことにした。周囲の目がぼくたちを見つめているようで恥かしかったが、病人に重い荷物を持たせるわけにもゆかないではないか。
 帰りの電車の中で、クラブ活動の話をすると、親父は自動車部に入部すれば車を買ってやると言う。だがどうせ仕入れの運転手として、こき使われることが見え見えなので曖昧な返事をするしかなかった。それにもし都立K高校に合格すれば、こんな高校には入らないと決めているのだから……。
 そうは言っても、都立高校の受験日より前に入学金を支払わなくてはならない。それにボンボン高校のG学院大学付属高校の入学金はかなり高額なのだ。しかし今はそんなことを考えてもしょうがない。とにかく3週間後に迫っている都立高校の入学試験に望まなくてはならない。

 凍えそうな真冬日である。都立高校の入学試験は科目数が多いため2日間に亘って実施された。いつもながら数学と英語は散々であったが、模擬試験でほぼ0点だった美術、音楽、保健体育などが本番の入学試験では満点となり、数学・英語の低得点をフォローすることができたのである。これはまさに「旺文社の科目別要点整理」のお陰であった。
 「せっかく高い入学金を払ったのだから」とG学院大学付属高校を勧める母の言葉を無視して、ぼくは最初から決めていた都立K高校のほうを選んだ。

(次回に続く)

作:五林寺隆

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最終更新日  2024.03.10 17:17:46
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