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テーマ:ベトナム好き集まれ(2184)
カテゴリ:ベトナム文学
「子供の結婚」 タック・ラム著 岩井訳
結婚の日 今朝、寒かったので布団の中でぐずぐずしていたら、父がぼくを引っ張り起こし目をギョロつかせて言った。 「起きんか! お前は嫁を迎えに行く服を着なくちゃならんのだろう」 急いで跳ね起きて離れに行ってみると、人々が忙しそうに立ち回っていた。ライスペーパーで包んでいる人、豚肉を挽いている人。何房かのビンロウの実を詰めた丸い木箱が数箱あり、真っ赤なフランス製の布が巻かれている。 朝食をちょっとつまんでから服を替えに行った。母が衣装箱を開けて服を取り出す。叔母や近所のテオの野郎までが様子を見に集まって来た。最初、ぼくは真っさらの紅染めされた絹の半袖シャツを着た。一度も洗濯されていないズボンは、長くて硬くて歩くとゴワゴワする。腰に縮緬の帯を締める。二重に巻くがまだ長い。 晴れ着の着付けがここまで終わると、母は薄い朱色の着物とお椀の口ほどもあるかという大きな花をぼくに渡した。おいおい、綺麗過ぎるよ! 叔母がその着物の布地は中国の錦で、一着10ドンはする代物だと言った。けどどうしてこんなにぶかぶかで長いんだろう、膝まで裾が垂れ下がってきている。 「それでいいのよ、大きくなったらちょうどよくなるんだから」 母はそう言うと、今度は頭に巻く布と新しい靴をぼくに渡した。たとえ五年後だってまだぶかぶかのままだろう布と靴だ! 着替えが終わり、鏡を出して我が身を映し、ちっとは大きくなったか見てみる。母はぼくをあっちに行かせたりこっちに行かせたりする。ぼくはぶかぶかで恥ずかしくてたまらないというのに。テオの野郎が手を叩いて笑う。 「花婿らしくなってきたじゃねえか」 ぼくまでつられて浮かれた気分になってきた。あとは唇に紅をひけば、これで男前の一丁あがりってわけだ。 つづく お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2005年06月20日 00時12分58秒
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