【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! --/--
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x

ベトナム見聞録

ベトナム見聞録

フリーページ

2005年06月22日
XML
カテゴリ:ベトナム文学
「子供の結婚」 タック・ラム著 岩井訳

花嫁を迎えに

母屋に戻ると、親戚たちが既にたくさん集まっていた。誰もが真新しい服に身を包み、すごく嬉しそうに見える。友達同士でワイワイやるんだったらかまわないけど、きょうはみんな花婿を見物に来てるわけで、ぼくはもう恥ずかしくてこっそり逃げ出したい気分だ。だけど逃げ出すわけにもいかない。

いまや爆竹に火が点けられ、青い煙がモクモク立ち込めていいにおいがする。不発の爆竹で遊ぼうと何個か拾おうとしたら、父がぼくを睨み付けたのであきらめた。

表の路地に出てみると、人々が取り澄まして悠然と二列に並んでいる。なんでこんなにたくさんの人が見に来てるんだろう。しかも大部分がぼくと同じぐらいの年端もいかぬ子供だ。そいつらはぼくを指さしては、ひそひそと何かを言い合っていた。ぼくは恥ずかしくて母の背に隠れたが、なんの解決にもならない。するとまたもやティーの奴が大きな声で叫んだ。

「おまえ嫁もらいに行くんか、おうおう、またきれいな服着て」

幸いなことに、花嫁の家はそれほど遠くはなく、ほんのすこし歩けば着いた。

なんだ、バーさんちじゃないか。それなのにぼくの母はずっと隠していた! けど、誰と結婚するのかぼくが今の今まで訊かなかったというのも可笑しな話だ。バーさんちの娘といえばあの小太りの女か。井戸のところでときどき見かけるあの娘に違いない。

バーさんの家に入ると、人々は既にたくさん集まっていた。ごちそうを載せたお盆が次から次へと運ばれてくる。笑い声や話し声がにぎやかにこだまするが、だんだんと酔っ払いのだらしない口調になっていく。ぼくはといえば、ハノイ動物園のサルでも見物するかのような周りの人たちのせいで、恥ずかしくて何も喉を通らない。「花婿だ」、「花婿だ」とあっちでもこっちでも人々の声が上がり、ぼくはもう泣き出したかったが泣いてどうなるわけでもない。

花嫁を連れ帰るのを請う頃合いになると、さらにややこしいことになった。花嫁側はきっかり100ドン要求した。ぼくの母は20ドンまけさせようとするが、相手側は頑としてはねつけ、頑として花嫁を渡そうとはしなかった。そして両家は声を荒げはじめ、ぼくは心配になりはじめた。1ドン2ドンをめぐる永遠に続くかのような値段交渉の末、ようやく85ドンで折り合いが付いた。それ以上は一銭たりとも譲れないというわけだ。

部屋の戸が開き、花嫁が歩み出てきた。数人の娘が花嫁の周りに付き従っている。そのなかにはスー嬢もまじっていて、彼女はぼくを見て微笑んだ。
はっきりと顔を見ることはできなかったけど、花嫁はぼくの二倍はあろうかという大柄で肥えた女で、ぼくは背筋が寒くなった。寺院に参拝に行き、そのとき花嫁もぼくの横で拝んでいたけれど、ぼくには花嫁を直視する度胸がなかった。

人々は地面に御座を敷き、そしてバーさんとバー婦人がサップ台の上に座り、ぼくたちに跪拝させた。バーさんは不安定な姿勢で腰掛け、ときどき髭をなでてはとても得意そうな様子を見せていた。バー婦人は息も付かず一気に長々としゃべり出したが、ぼくには何を言っているのかさっぱり分からなかった。けれどバー婦人がお金の詰まった財布二つと赤い紙の包みを持ってきたとき、中にたっぷりお金が詰まっているだろうことは、ぼくにも理解できた。そしてバー婦人は鷹揚に言った。

「ほれ、婆がおまえたち夫婦に少ないけどお金を用意してやったよ。将来家を出て独立して暮らすときに、これで土地を買って商売でもしてお互い助け合うんだよ」

ぼくは恐くてお金を受け取っていいのか分からなかったけど、父が目配せをしたので屈んで受け取った。うわぁ、なんて重いんだ! かなりの大金に違いない。これだけあれば思う存分お菓子が食べられるぞ。

つづく





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2005年06月22日 11時05分21秒
コメント(0) | コメントを書く
[ベトナム文学] カテゴリの最新記事


PR

キーワードサーチ

▼キーワード検索

プロフィール

くまねご

くまねご

カテゴリ

お気に入りブログ

ベトナムニュース VietnamNewsさん
Cafe Vietnam bich_vietnamさん

コメント新着

コメントに書き込みはありません。

© Rakuten Group, Inc.