埋もれ火のアンソロジー

長谷ダム

「ながたにダム」と読む。

この人工ダムの下には

一本の道があった。

民家もあった。



この湖底に沈む

細い山道を知ったのは

３１才（１９８６年）の秋だった。

猪野神社の猪野川にいった帰りに

先輩がこの道を教えてくれた。

久山と香椎を結ぶ最短の道だった。




近くには三日月山や立花山があり

自然に恵まれた緑の世界だった。

縁があって

１９８７年の夏、この森の裏側に住むようになり

ますますその山道を利用することが多くなった。




ある日、森の中に大きな道ができた。

そして、大きなトラックが走り出した。

やがてダイナマイトの音が響いた。

車窓から見えてた緑が日々消えていった。

まだ、その頃の僕はそこがダムになるなど知るよしもなく・・・




１９９９年。

僕は３人の息子たちと

ダムの辺で釣りをしていた。

２００３年。

僕はひとりで釣りをしていた。

このダムの淵を何周歩いたことだろうか？

雨に降られたこともある・・・。




２０１０年。

僕は釣りをやめて

ダムの辺に立っている。

そして

この湖底に沈んだ

道、家屋、森のことを

思い出そうとしているが

その記憶は断片的でしかない・・・。




あの唄が想い出せない