マイルス・デイヴィスの真実
『マイルス・デイヴィスの真実/小川隆夫』を読みました。「マイルス・デイヴィス」と親交のあった ジャズ・ジャーナリストであり整形外科医師である「小川隆夫」氏による、「インタビュー」をもとに綴った、「マイルス・デイヴィス」の歴史と実像が その素顔たっぷりに描かれている傑作本です。 ボクはすでに「マイルス・デイビス」の、 その赤裸々な実像が描かれた『マイルス・デイビス自叙伝(上)(下)』を 読んでいましたので、 それ以上の「マイルス・デイビス本」はもうないだろうと 思い、その手の本は「自叙伝の後追い本」と判断し、 読んでいなかったのですが、『本書』もまた、傑作であるという書評を何かで 読みましたので、「3,800円」で「500ページ」という 高値かつ莫大なページ数にめげず、読んでみました。 いやぁ、見事にひきこまれ、あっという間に読み終えて しまいました、そして「3,800円」に充分みあった、 まれにみる充実した内容でした(^^)『マイルス・デイビス自叙伝(上)(下)』と あわせて読むと、より「マイルス・デイビス」および その作品、メンバー、時代背景などなどがリアルに 浮き彫りにされること間違いなしだと思います。「マイルス・デイビス」および「ジャズ」のファンはもちろん、 芸術全般および社会背景などなどに関心のある 全ての人々にとって必読の内容であり、 かつ「小川隆夫」氏の、「純真な一ファン」としての、「素直かつ真摯な筆致」が心にしみてきて感動的です。 よくぞ本書を残してくれました、感謝感謝であります!!「マイルス・デイビス」の歴史は「ジャズ」の歴史といっても過言でなく、「マイルス・デイビス」が発表する作品は全て その後の「ジャズ」の流れをつくってきていました。 それは「マイルス」の、つねに「現状」に安住することなく、「先へ先へ」と前進していくスタンスによるものであり、 そしてそれは一見効率よく、何のムダもなく 行われていたかのようにうつります。 しかし実際は、多くのミュージシャンおよびアーティストと 同様に、試行錯誤を重ね、時には明らかな「失敗作」を 産み出したこともあり、かつ「麻薬」におぼれるなど、「ズブズブのどうしようもない時期」もあったことは、 明らかな事実でして、そのあたりのことも『本書』および『マイルス・デイビス自叙伝』には 具体的に描かれています。 そしてボクが個人的に思うのは、「傑作」とは、「ストレートにまわり道せず」に 産み出されることは絶対になく、 それまでの「試行錯誤」および「明らかな失敗作」 および「バカな行動&言動」などなどを「経てこそ産み出されたもの」であり、「それらなくしては産み出されない」のだと思うのです、 本人およびまわりが意識しているかどうかは別にしても。「突然のひらめき」と思えるようなこと、「タナボタ」と思えるような幸運と思えることも、「それら」を経てこそのものであり、 つまり「明らかな失敗作」や「バカな行動&言動」など なしにはその「傑作」は産み出されなかったのだと、 確信しました、『本書』を読んで、あらためて。 なので、今の「批評家」および「マスコミ」の人たちは、 その時の「最新作の内容」だけで判断しての「辛口批評および批判」だけにおちいってしまわず、「この作品はいまいちかもしれないけど、 この作品が、のちの傑作のステップなのかもしれない のだと認識」した上で、大きくとらえて批評することが 重要なのではと思いました、音楽だけでなく、 映画、文芸、芸術などなど全般において(例えば、明らかに「ファンク」に向いているスタイルの ミュージシャンがいて、そのスタイルで何作か 傑作を生みだしているのに、 全く違ったスタイルの、たとえば「アコースティック」なメンバーによる、「現代音楽的なフリー・ジャズ」の作品だったり、「ギター弾き語りのフォーク・ソング」の作品を発表し、 それが明らかな「失敗作」だったとしても、 それをけなすことに終始してしまうのでなく、「それを演ったこと」でしか産み出すことが出来ないであろう「未来の傑作」に思いをはせつつ、 暖かい目で見守ることもまた、 必要なのではっていうことなのです。「新しい才能が出てこない」と嘆く前に、「新しい才能を潰してしまわないこと」こそ、大事なのではと)。 とまぁそんなことを、『本書』を読んで、「マイルス・デイビスの生涯」を追体験することで、 あらためて思った次第なのであります。