米国野球のレジェンドベーブルース(その2)
ベーブルース博物館の展示物が非常に興味深く今回で2本目の記事となる。1本目はベーブルースの野球の成績について紹介した。今回はベーブルースと日本野球の関わりに焦点を絞ってみたい。ベーブルースの名が日本でも知られているのには訳がある。1934年10月28日にベーブルースを含めたアメリカのオールスターが日本で親善試合をするために来日していたのだ。東京での歓迎は凄まじく、パレードでは米国野球界のスーパースターを見るべく人が殺到した。その後阪神甲子園球場で行われた試合には80,000ものファンがチケットボックスに並んだらしい。博物館にはベーブルースが日本から持ち帰ったとされる品が多く展示されていた。まさかアメリカの野球選手の博物館にやってきて日本の国名を目にするとは思わなかった。宿泊先であったであろう帝国ホテルがプレゼントした旅館浴衣が展示されていた。ルースの娘のJulieによるとルースは米国に帰った後も日本の浴衣を寝巻きに使用していたらしい。確かに実際に展示品を見ると首回りが擦れてほつれており、使い古されている印象を受けた。またその近くには阪神甲子園球場と阪神タイガースが博物館に寄贈したレリーフが置かれていた。さすが2023年に日本シリーズで優勝するチームだけあって行き届いた配慮に驚いた。書かれていた英文と日本語訳をご紹介する。英文:“Babe Ruth was part of a team of American All-Stars who toured Japan in 1934 and played at Hanshin Koshien Stadium. That visit and Ruth’s tremendous appeal to the Japanese people, led to the birth of the baseball culture there. This is a replica of a sculpture from Hanshin Koshien Stadium, a baseball icon in Japan. Sculptor Yutaka Matsuoka was commissioned to create the piece to commemorate Ruth’s visit and friendship. This plaque is presented by Hanshin Koshien Stadium and the Hanshin Tigers baseball team to celebrate the opening of Sports Legends at Camden Yards, and to recall the US-Japan baseball cultural exchange and friendship between the two countries started by the Babe, with hopes of building a stronger relationship through baseball.”日本語:「ベーブ・ルースは、1934年全米オールスターチームのメンバーとして訪日し、阪神甲子園球場で素晴らしいプレーを披露した。ルースの訪日は、日本中に野球本来の愉しさを伝え、今日の日本の野球文化の礎を築いた。このレリーフは、日本を代表する野球場、阪神甲子園球場がその親善の偉業を称え、彫刻家松岡氏に依頼し、制作したものを復刻したものである。この度総合スポーツの記念館が新設されるにあたり、日米野球文化の友好の歴史を偲び、これからも野球を通じた友好関係が広がることを願って、阪神甲子園球場と阪神タイガースが共同で、ここに贈呈する。」さすが日本の野球の聖地である甲子園ならではの粋な計らいだ。しかもこの博物館の素晴らしいところはベーブルースの展示にとどまらないことである。なんと日本のホームラン王である王貞治のバットまで置かれていた。王貞治の言葉がまた素晴らしいのでご紹介させていただく。(王貞治が活躍していた頃はまだ私は生まれていないので、英文から王貞治の発言を再現してみたい)英文:“714 was just a number for Babe. Even though his record was later surpassed by others, it doesn’t mean they are better than him. He was more than a home run hitter…he was a superstar who still lives at the summit of baseball history. No one can deny this history.”日本語訳:(筆者訳)「714本はベーブにとって数字に過ぎない。きっと彼の記録は誰かによって塗り替えられるが、それは彼よりも秀でているというわけではない。ベーブはホームランバッター以上の存在なんだ。彼は野球史の頂点に君臨するスーパースターだ。誰もこの歴史を否定できない。」記録を塗り替えてもリスペクトの気持ちを忘れない王貞治の謙虚な気持ちに心が洗われる気がした。このベーブルースが来日してから約15年後に第二次世界大戦が始まり、日米両国の友好ムードは一気に冷めて敵対国となってしまう。日本兵は米国兵に向かって”To Hell with Bebe Ruth(ベーブルースと一緒に地獄に落ちろ)”と叫んで侮辱していたという。アメリカ人のベーブルースへの愛を逆手に取ったのだ。あれだけ愛されていたのに、政治的状況によってその愛は憎悪に置き換えられてしまう。戦争の主導者はありとあらゆる手段で憎悪を増幅させる手段を探る。ベーブルースも憎悪を生み出すための材料に使われてしまったのだ。ベーブルース博物館は野球の楽しさのみならず、スポーツの尊さも教えてくれる貴重な博物館だ。戦争によって引き裂かれてしまったが、近年アメリカで野球をする日本人が増えてベーブルースの人気は高まっている気がする。日本人はベーブルースを愛し、ベーブルースは日本を愛していたのだ。スポーツが育む慈愛の心は清く尊い。この博物館でアメリカ人の野球への愛、また日米野球の関係についても学ぶことができるだろう。入館料は大人$13、子供5歳~13歳$7、シニア$11となっている。バルティモアに立ち寄った際はぜひお勧めしたい。私のようなにわか野球ファンでも十分楽しめる。きたろう