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カテゴリ:思い出を小説に
< 地主さま登場 >
作治さんの母親に手伝ってもらい着替えを済ませた「きく」さんは、囲炉裏の前に座って身体を温めていた。 「せいちゃん(清治《仮名》、作治さんの父親の名前)わしだよ正一(地主、つまり、きくさんの父親の名前)だ。きくが来ておるじゃろ、開けてくれんか」 清治さんはすぐさま、引き戸のカンヌキをはずすと地主であり幼馴染でもある正一を迎え入れた。 「このたびは申し訳ねえことで、だどもお嬢様が雨に濡れておられたので乾いた着物に着替えてもらって、囲炉裏で温まってもらってからお屋敷までお送りするつもりでおりましただども・・・」 「そりゃあ反対だ、せいちゃん。詫びを言わねばならんのは、わしの方だて。娘が面倒をかけたのう、このとおりじゃ」 そう言うと地主さんは清治さんに頭を下げた。 他のひとたちは皆一様に驚いていた。この時代、大地主が一農民に頭を下げることなど考えられないことだったのである。 清治さんに向かって頭を下げた後、地主さんは囲炉裏の前で身体を強張らせて座っているわが娘を見やって、一つため息をついてから話しかけた。 「きく、これまでにただの一度たりともわしの言いつけに背いたことの無いお前のことじゃ、てこでも其処を動く気はないのじゃろうな」 「はい・・・ごめんなさいお父様」 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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