【粗筋】
武者修行の侍が山中で道に迷い、一軒のあばら家を見つけるが、女の一人暮らなのでと断られる。物置の隅でもいいからと言って入れてもらうと、この女が大変な美人。話をするうちに、立て膝をしたり、流し目をしたり、色っぽいのでたまらず、女に抱きつくとたんに、見事に投げ飛ばされてしまった。
はっと気が付くと野原の真ん中。傍らに破れ傘が一本落ちている。
「さては傘の化け物であったか。どうりでさせそうでさせなかった」
【成立】
寛政11(1790)年『意戯常談』の「化物」。娘に近付くと「何をする」と蛇の目のようににらみつけるので化物かと声を掛けると、「自分は縁の下に三千年も忘れられた古傘です。古金屋に見せて下さい」と言って正体を現す。「ははあ、させねえのももっともだ」というもの。「蛇の目」になるのが洒落ている。
桂文治(8)は「福田八郎」、三遊亭円歌(2)は「落武者」という題で演じた。女が「させそうでさせない」のと、破れた傘が「させそうでさせない」ということを掛けた落ち。武藤禎夫の本で「福田八郎」を紹介しているが、本文は「敗れ傘が一本」で終わっている。考え落ちにしてはピンと来ないがどうなのだろう。
【蘊蓄】
傘を「からかさ」という。その由来として次の説がある。
1:開いたりすぼめたりする「カラクリ傘」の略。
2:カラは「唐」で異邦から来た不思議な、変わった物を指す。
3:柄がある「柄かさ」の意味。
4:韓から渡ってきた物なので、「韓かさ」の意味。
5:軽い傘なので「カルかさ」。
江戸では茅場町と照降町に有名な傘屋があったという。照降町の名と店のどちらが先か、両方の説がある。