憲法H19-1
憲法H19-1【問題】 A市では,条例で,市職員の採用に当たり,日本国籍を有することを要件としている。この条例の憲法上の問題点について,市議会議員の選挙権が,法律で,日本国籍を有する者に限定されていることと対比しつつ,論ぜよ。【答案】一 A市条例の合憲性 1 A市の本問条例は、市職員の採用にあたり、日本国籍を有することを要件としている。そこで、外国人の市職員に採用される権利、すなわち公務就任権を侵害しないか。 2 外国人の人権享有主体性 外国人に公務就任権が保障されるかを検討する前提として、まず、日本国籍を有しない者である「外国人」に人権享有主体性が認められるか。第三章が「国民の権利・・・」の章であることから問題となる。 この点、人権の前国家的性格及び憲法が国際協調主義を採用すること(前文、98条2項)から、権利の性質上日本国民のみを対象とすると解されるものを除き、外国人にも人権享有主体性が認められる。 3 公務就任権 (1) 次に、公務就任権は憲法上、明文がないが、保障されるか。 公務就任権は、自らを公務員に選定する権利として15条1項によって保障される。これは広義の参政権の1つといえる。また、公務も「職業」の1つとして、22条1項によっても保障される。 (2) では、外国人にも保障されるか。 15条1項は、国民主権原理(前文、1条)の下、国政の負託者である「公務員」の選定を主権者たる国民の「固有の権利」としたものである。よって、権利の性質上、外国人には保障されない。 他方、22条1項は、人格的生存(13条)の基盤をなす生計手段の選択を自由とする前国家的権利であるから、権利の性質上、外国人にも保障される。 もっとも、外国人にも保障される22条1項が「公務」を対象とするときは、さらに検討を要する。公務が国民主権原理の下、国政運営にかかわるからである。一方で、日本人と変わらない生活実態を有する永住資格者の存在も忘れてはならない。そこで、「公務」にも、国民主権と深くかかわる権力的作用を行使するものと、そうではなく技術的・教育的・事務的なものとがあることから、後者の公務に就任する権利については、22条1項により永住外国人にかぎって保障される。 4 国籍要件の合憲性 永住外国人の場合に一定の公務就任権(22条1項)が保障されるとしても、「公共の福祉」(22条1項)に反しない限度で保障されるにすぎない。そこで、A市条例による制約は合憲か。その審査基準が問題となる。 公務就任権のような経済的自由権は、立憲民主政に不可欠である精神的自由権と異なり、制約されても政治過程をつうじて是正が可能であるから、国会の立法裁量を重視し、ゆるやかな基準で判断すればよい(二重の基準)。公務就任権の場合、「職業」という人生の生き方の選択である点は重要だが、「公務」が国民生活と深くかかわることから、立法目的及びその達成手段につき合理性が認められるかにより判断すべきである(合理性の基準)。 本問条例の目的は、(1)後述するとおり地方政治においてもその担い手は国籍保有者である「住民」であることから、地方政治の運営の責任を国籍保有者である住民に帰すること、(2)かぎられた財源から給与が支弁される公務員として雇用される機会を国籍保有者に優先することにあると考えられ、合理性が認められる。また、このような目的達成のために国籍要件を設けることは合理的である。 5 以上より、本問条例は合憲である。二 市議会議員の選挙権が、法律で、日本国籍を有する者に限定されていることについて 1 このような限定が外国人の選挙権を侵害しないか。 選挙権は15条3項によって成年者に保障されるが、市議会議員の選挙権については、93条1項によって「住民」に保障される。 では、「住民」に外国人が含まれるか。選挙権は、国政のあり方について国民が権利と責任を持つ国民主権原理(前文、1条)の下、もっとも重要な基本権であり、地方公共団体も国の統治機構の一部であるから、このことは地方政治のばあいも異ならない。そうすると、「住民」とは日本国籍を有する居住者を意味する。よって、外国人は含まれない。 この点、地方自治を制度的保障として住民の意思による運営を目ざした第八章の趣旨から、その居住する自治体ととくに緊密な関係を有するに至ったと認められる永住外国人に立法によって地方選挙権を付与することは、憲法上禁止されないと解される(許容説)。しかし、憲法上の保障はないので、このような立法措置を講じなくても違憲ではない。 2 以上より、本件限定は合憲である。三 対比 本問の条例による国籍要件は、永住外国人には一定の公務就任権(22条1項)が保障されていることから、「公共の福祉」による制約の範囲に留まるがゆえに合憲となる。 これに対して、法律による国籍要件は、もともと外国人に選挙権の保障がないことから合憲になるという差異がある。 これは、選挙権が後国家的な参政権そのものであるのに対し、公務就任権は、永住外国人のような国籍保有者とかわらない生活実態の者が存在することを前提として、前国家的権利である職業選択の自由による保障があること、公務も広義の参政権の対象となるが多種多様であり権力作用とかかわりの弱いものも存在するという、権利の性質の差異によるものと考える。 以上(65行)