民事訴訟法H18-1
民事訴訟法H18-1【問題】 訴状の必要的記載事項の趣旨を明らかにした上で,その不備を理由とする訴状の却下について,その裁判の形式と効果を踏まえて,説明せよ。 【答案】 1 訴状の必要的記載事項の趣旨 (1)訴状の必要的記載事項は、 1)当事者および法定代理人(133条1項1号) 2)請求の趣旨(同2号) 3)請求の原因(同3号) である。 (2) 1)の趣旨 当事者とは、判決の名宛人となるべき者をいう(形式的当事者概念)。 当事者は、管轄(4条)、除斥(23条1項)、忌避(24条)、回避(規則12条)、重複起訴の禁止(142条)、訴状の送達(138条1項)などの基準になる。したがって、当事者は、訴訟手続がスタートする訴状の提出(133条1項、訴えの提起)の段階で明確でなければならない。 被告に訴状が送達されると(138条1項)、二当事者対立構造が形成されるので、その時点で訴訟が成立する(訴訟係属)。 そして、訴訟手続のゴールは、確定判決の既判力による紛争の解決である。既判力は、原則として「当事者」にのみおよぶ(115条1項1号)。なぜなら、紛争解決には通常それで十分であるし、手続保障が与えられたことによる自己責任として正当化されるからである。 そうすると、既判力がおよぶ当事者は、訴訟手続のスタートから明確で、手続保障が与えられていなければならない。これが、当事者が訴状の必要的記載事項である趣旨である。 ここで、当事者に訴訟能力がない場合は、法定代理人が当事者の身代わり的立場で訴訟を追行することになる。これは、当事者の保護と訴訟の便宜のためである。法定代理人は、既判力のおよぶ当事者ではないが、当事者に代わって訴訟追行するものとして、訴訟の開始時点で明確でなければならない。 よって、法定代理人がいる場合には、訴状の必要的記載事項となる。 (3) 2)の趣旨 請求の趣旨とは、原告がいかなる判決の主文を求めるかの記載をいう。 たとえば、「被告は原告に金100万円及びこれに対する支払済までの年5分の利息を支払え。との判決を求める。」との記載をいう。 民事訴訟は実体法上私的自治の妥当する私人間の紛争であることから、法は、訴訟上も自己の権利をいかなる範囲でどのように実現するかを原告の意思にゆだねている(処分権主義)。そして、請求の趣旨と原因があいまって「訴訟物」が特定されることになる。 これによって、裁判所に審判対象が提示される。また、裁判所は、原告の申立てた範囲をこえて判決できない(246条、不告不理の原則)。被告に対する関係でも、防御の範囲を示して手続保障をあたえ、既判力のおよぶ客観的範囲(114条1項)を画することにもなる。 そのため、訴訟手続のスタートから明確でなければならないから、訴状の必要的記載事項となっている。 (4) 3)の趣旨 請求の原因は、請求の趣旨とあいまって「訴訟物」を明確にするものである。 すなわち、請求の趣旨が訴訟物たる抽象的な権利義務ないし法律関係であることから、その根拠となった事実を示して、具体的な主張立証の対象となる訴訟主題を明らかにする必要がある。これにより、たとえば、訴訟物は「甲乙間の本件売買契約にもとづく金100万円の代金請求権」というふうに特定される。これも、訴訟手続のスタートから、裁判所に審判対象を明示し、被告に防御の範囲を明確にして手続保障をあたえる必要から、訴状の必要的記載事項となっている。 2 その不備を理由とする訴状の却下 (1)裁判の形式 訴状審査をした裁判長の、命令による却下である(137条2項)。 (2)効果 訴えの提起(133条1項)が遡及的に無効となる。したがって、時効中断効(民法147条1号)は生じない。 本案に対する判断である判決とことなり、既判力は生じない。手続保障が与えられていないし、そもそも訴訟の成立すら存しないからである。 以上