『六番目の小夜子』　恩田陸

2006.05.06

カテゴリ：本

『六番目の小夜子』　著：恩田陸

ホラーのような、ミステリのような…。
ものすごく怖いわけではないんだけれど、
夜読んでいると、背筋がゾクゾクしてきた。

ある学校に伝わる、サヨコ伝説。
しかしそれは、単なる伝説ではなく、
今も生きている、今も継承されている、秘密の行事。

誰もがサヨコの秘密を知りたい、
サヨコの正体を知りたい、と思っていながら、
その秘密を暴くことは、タブーとされている。

この年頃ならではの、共犯めいた意識、
とでも言うのか。

一つの秘密を、仲間と共有する、心地よさ。
それって、学校時代でしか味わえないような気がする。

確かに学校って、不思議な空間だよね。
好き嫌いに関わらず、同じ年の子たちが、
一箇所に集められ、毎日毎日顔を合わせ、
同じことをする空間。

そこにやって来た、一つの異物である、
才色兼備の転校生。

しかも彼女の名が、「沙世子」ときたら、
心が騒がないワケがない？

学園祭でのシーンは、読んでいてかなり緊張しました。
赤のランプ（とまれ）と、黄色のランプ（いそげ）が、
見えちゃって、そのペース読んじゃってる。

まったく、上手いよなぁ（笑）。

その台本を実行しようとした実行委員曰く、
「青春の素晴らしさ、今この人生の仮の場所である
学校というところで一緒に時間を共有して
一緒に巣立って行ける素晴らしさ、
ということを切々と訴えていくのがあの話のメインで、
ほんとはさわやかに感動して終わるはずだった」

それなのに、暗闇の中、ペンライトの明かりだけで、
赤と黄色のランプに急かされて、
「サヨコ」というキーワードも手伝って、
恐怖に陥ってしまった、集団心理。

『夜のピクニック』のような学校物語と、
『チョコレートコスモス』のような演劇小説の走り、
といった感じ。

しかし、『夜のピクニック』もそうだけれど、
おかしな伝統のある学校が、多いこと（笑）。

そしてこの、「サヨコ」を伝承していく仕組みがまた、
偏差値の高い学校ならでは、というか（笑）。

私なんて読んでるだけで、え？どういうこと？
って何度もなってしまったし、ワルな学校ならば、
「サヨコぉ？んなの知るかよ」で終わっていたはず。

受験に絡むジンクスだからこそ、みんなが恐れていた、
というのも、進学校ならでは。

クライマックスの学園祭のシーンも、
こんな良い子たちの揃ってない学校だったら、
まず成立しないだろ、というところを、ぶっつけ本番でも、
これだけのものができあがるのだから、さすが。

しかしその、触れざるべき伝統が、
実は、人の手によるものだった…？

というオチというか、種明かしというか、そこのところが、
やはりまだまだ未熟な学生時代を表しているような。

手のかからない、何でも自主的にやる、
優等生な学校でも、結局は「学校」という器の中で、
見えざる手によって、一つの方向に進ませられているのか…。

ラストがイマイチ急展開過ぎる、というか、
最後のキーパーソンの登場と行動が、
あまりに突飛すぎな気が、しなくもなかったが。

でもこの年頃の女の子は、同性の言葉に過敏に反応し、
過剰に信頼しすぎるものなのかもしれない。

学園祭の前の、気分の高まりとか、一体感とか、
終わったあとの、脱力感、受験に向けての焦燥感、
そして同級生との、友達以上恋人未満な関係だとか。

あのサヨコ騒ぎのお陰で、この時を過ごした主人公たちは、
いつまでも鮮明に、それらのことを思い出すんだろうなぁ、
と、そんな彼らが羨ましくなった、一冊でした。

NHKドラマ『六番目の小夜子』