＊モナミ＊ SMAP･映画･本

『華麗なる一族　上』

『華麗なる一族　中』

『華麗なる一族　下』

著：山崎豊子


業界ランク第10位の阪神銀行頭取、万俵大介は、
都市銀行再編の動きを前にして、
上位銀行への吸収合併を阻止するため必死である。

長女一子の夫である大蔵省主計局次長を通じ、
上位銀行の経営内容を極秘裏に入手、
小が大を喰う企みを画策するが、その裏で、
阪神特殊鋼の専務である長男鉄平からの融資依頼を、
なぜか冷たく拒否する。


木村拓哉主演のテレビドラマ『華麗なる一族』とは、
話の大筋はほぼ同じだけれども、ディテールが、
かなりドラマオリジナルだったのね。

二子も、ドラマでは出てこなかったけれど三子も、
割と無邪気に、父大介の愛人、高須相子に懐いてるし。


とても男らしく熱かったドラマの木村鉄平さんよりも、
へなちょこっぷりの際立つ、阪神特殊鋼専務の万俵鉄平。

父であり、メイン・バンクの頭取である万俵大介が、
他人であれば専務の首をさっさと挿げ替えるものを、
との苦々しい思いに、思わず同意してしまうほど、
鉄平さん甘いよ…と、金融にも鉄鋼業にも疎い私でも、
思ってしまうほど。

一人で何とかしよう、と熱意で奔走するのはいいけれど、
あそこまで事態が悪化するまで、意図的でないにしろ、
メイン･バンクに報告しないままなのはまずいんじゃないかと、
シロウトでも感じたのだけれど。

父親である大介のやり方には、空恐ろしさを覚えるけれど、
でも鉄平の甘さの方が、経営者としては怖いかも…。


ドラマでの高須相子へのむき出しの憎悪も、小説では、
相子や大介を非難する妻早苗に、仕方ないじゃないかと、
さほど真剣に取り合わず。

つる乃屋の若女将に、たびたび迫ったりしてるし、
いい男度あんまり高くないような。


しかしこの時代、男が外で女を持つことは、
インモラルどころか、ステイタスだったのねぇ。

つる乃屋の老女将も若女将も、鉄平のような健康な男が、
奥さん一人で満足できるわけがない、って、
それが当たり前のごとく、女を勧めるし。

政界、金融界のオヤジたちも、外で女を囲ってたり、
お手当て出してる芸妓や仲居がいたり。

今の感覚からしたら、それって不倫でしょ？って思うけど、
この時代では、不倫でもない、ただの性欲処理だったのか。

その時代遅れな感覚を引きずってるのが、
うちの会長だけれども。
規模は違うけどね、違いすぎるけどね。

大介も毎晩、相子と寧子交互相手に頑張ってるし。
たまに3Pしたり、60過ぎのオッサンが、気持ち悪い（笑）。

それぐらいギラギラしてないと、金融界も政界も、
生き延びていけない、ってことか。


鉄に対する熱意は突っ走り気味だけれど、
そんなギラギラ感の、ちょっと薄い鉄平さん。

猟銃自殺に至るまでに、ドラマほど思い悩んでいるようには、
思えなかったのだけれど。

もっとも小説は、鉄平の苦悩物語でなく、父である大介の、
阪神銀行を軸とした金融界のドロドロを描いたものだから、
鉄平部分は、あっさりとせざるを得なかったのかもしれない。


阪神銀行の策略で食われてしまう、大同銀行の三雲頭取と、
鉄平以外の登場人物がみな、揃いも揃って腹黒い。

思ってもないどころか、胸中と反対のことを、
澄ました顔して、いけしゃあしゃあと話す、
これ以上ないくらいの慇懃鄭重な言葉遣いの、
彼らの会話を読んでると、薄ら寒くなってくる。

人って、どこまで嘘つきで、
どこまで冷徹になれるんだろう。

それぐらい面の皮が厚くないと、銀行マンや政治家なんて、
やってらんないんだろうな。

カネとヒトを動かすには、バレないように嘘をつく能力が、
何よりも必要なのか。


結局、貧乏くじを引いたのは、言葉通りにアツかった、
三雲と鉄平だけ。
正義と誠意を信じた者が、煮え湯を飲まされる。


作者自身も語ってるように、勧善懲悪な物語ではなく、
悪がのさばる物語。

この壮大な小説を、ドラマの枠で納めようとするのは、
ムリだったと、読んで納得した、三冊でした。


『華麗なる一族　DVD-BOX』

『華麗なる一族　サウンドトラック』

『華麗なる一族』

【参考】
◆山崎豊子の著書は→　

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