カテゴリ:バス産業
財団法人 運輸政策研究機構主催による「第95回運輸政策コロキウム」に参加させていただいた。今回のテーマは「乗合バス事業の規制緩和政策がもたらした効果」で、講演者の大井尚司先生からは、規制緩和の負の側面を指摘しながらも価格低下やサービス向上などの事例が紹介され、おおむね規制緩和に対して前向きな研究結果が披露された。それに対し、対論者の東京海洋大・寺田一薫先生からは、諸外国との比較において、日本のバス業界の規制緩和はまだ不十分であるというようなコメントがあった。大井先生の講演の中では「ツアーバスに学ぶべき点は多い」ともご紹介いただいた。
この「乗合バスの規制緩和」問題に対して私の考えははっきりしている。公益性が高い(あるいは、競争原理の導入が大幅な需要増に直接は結びつかない)平場の路線バスについては、規制緩和は効率化やサービスレベル向上程度の目的にとどめ、むしろモータリゼーションの進展等で路線バス事業そのものの不振が明白な以上、どのように税金を投入すべきか、国民が納得するスキーム開発に注力すべきである。一方、収益事業である(あるいは、競争原理の導入によって大幅な市場拡大が望める)高速バス等は、安全面での規制は厳格に適用した上で営業面での規制は撤廃すべきである。平バスと高速バス等を分けて考えることが「キモ」である。その意味で、おおわく、大井先生に同感であった。 本日、問題は講演の後の質疑応答で起こった。研究者や国交省の担当官らからの質疑や意見が続いた後、ある私鉄系路線バス事業者から次のような意見があった。「(1)空港や駅前の便利な停留所は我々の商品の一部であり、後発事業者に開放する必要はないと考える。(2)現行法では路線の廃止は6ヶ月前に自治体に予告する必要があるが、バス事業者が路線を廃止するのは極論すれば八百屋が店をたたむのと同じであるから、やめたい路線はすぐ廃止したいので6ヶ月は長すぎる。」 あきれて物が言えない。(1)か(2)、どちらかならまだ理解できる。特に(1)については既存路線バス事業者の本音だろう。現行法では否定されたとはいえ、既存事業者に路線や停留所の既得権を認める代わりに事業エリア内については赤字路線も含めその事業者が責任を持って地域交通の維持にあたるという、旧来の「古きよき免許秩序」をよしとする気持ちはわかる。それが「地域のために役立っている」という路線バス事業者の誇りにつながっていた点は承知している。現行の法令に照らし合わせてどうかとか、その考え方で本当に既存事業者が永続的に事業を継続できるかどうか、という「理屈」は別として、感覚論としては理解している。しかし、上記発言「停留所の既得権は渡したくない。でもバス事業は普通のビジネスだから赤字ならすぐやめたい」では、「おもちゃも欲しい、お菓子も欲しい」と駄々をこねる子供ではないか。 私は、短期的成果を求める自分の会社に業界事情、特に既存の路線バス事業者の意識を変えるには時間がかかることを繰り返し繰り返し説明して、ようやく時間をかけてでも路線バス事業者に提携を提案営業することを認めてもらった(もちろん、高速ツアーバス事業を成長させ足元の数字でも会社に貢献し続けることが前提である)。そして、色々な方に助けていただき、最初は門前払いだった路線バス事業者にお邪魔するようになり、(ビジネスとしては上手ではなかったが)地域交通を守ってきたという彼らの誇りに最大限配慮しながら、規制緩和が進む中、彼らがこれまで以上に求められている「ビジネス」の要素をお手伝いしたいと頭を下げ続けている。 しかし、その相手が、公の場で上記のような発言を平気でするのは、本当にショックだった。会の直前に、別の老舗路線バス事業者の本社にお邪魔し、前向きな担当者から「業界特有のしがらみもあり今すぐ契約は無理だが、どうすれば一緒に仕事できるか協力して考えましょう」というような前向きの言葉をいただいていただけに、別の事業者とはいえ同じ既存路線バス事業者の上記発言は余計にショックだった。他の多くの既存路線バス事業者が、本日の発言者と同じような甘えた考え方の持ち主でないことを祈っているが・・・・・・ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2009.03.20 08:11:43
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