カテゴリ:高速ツアーバス
昨日、高速ツアーバス連絡協議会の年次総会を1ヶ月遅れで開催し、8月末の解散を決議した。本来ならば、万歳三唱?したり、メディアを招いて派手に伝えてもらったりすべきところかも知れないが、関越道事故と、事故以降の論調を踏まえ粛々と終わらせた。それでも、国土交通省と日本バス協会から幹部の皆様に来賓としてご臨席いただき、懇親会も盛り上がった。高速ツアーバス業態の成長も、同協議会の設立も、そして事故後の修羅場を乗り越え無事に移行完了できたのも多くの関係者のご協力の賜物であり、まずは深く感謝。
組織としての解散自体はともかく(これにも、業態がなくなったんだから即解散という考えと、少なくとも各社の事業が安定するまでしばらくは残すべき、という考えがあるが)、今般の制度改正について、突き詰めて考え抜けば様々な思いが、私自身にはある。 まず高速ツアーバス連絡協議会としては、「あり方検討会(旧)」冒頭の意見表明(2011年1月)において、<安全性・公平性を担保しつつ、柔軟な営業を可能とし、高速バス市場の最大化を支援する「新制度」を時間をかけてでも構築する>ことがゴールだと表明している。公平性とは「停留所の権利へのイコールアクセス」であり、柔軟な営業とは「レベニューマネジメントなど今日的なマーケティング手法」を指す。その点、今回の制度改正は、その両面において(若干の不足点はあるものの)協議会の意向が実現したと言える。 もっとも同発表を私は、<IT化など消費環境の変化、現制度の限界を踏まえ、短期的、長期的両面のアプローチで制度の最適化を目指す「ロードマップ」を作成し、期限を決めて「新制度」の構築を目指してはどうか>とまとめており、もう少し長期的に物事を考えていたと、今振り返ればそうわかる。そしてあの資料を作り発表した際、組織の意向としてはそれ以外の選択肢はないと納得しつつ、私個人としては複雑な思いが拭えなかった。一本化を進める役回りをなんとか務め終わった今でも、複雑な思いは消えたわけではない。 ひとつには、国の制度のあり方の話。高速ツアーバスは規制が甘いとよく言われるが、実際には旅行業法における消費者との契約に関する規制も、道路運送法における貸切バスの運行に関する規制も、特に後者の方は決して甘い内容ではない(乗合バスよりも貸切バスの方が危険であっていいわけではない)。だが、それを守っていないヤツがいる、つまり問題点は規制の「実効性」にあるのだ。だからといって事業モデル自体を禁止するというのは、どう考えても理屈に合わない。もっともその点は、議論の中で名古屋大・加藤先生が、<高速ツアーバスという事業モデルには、法令遵守意識の低い貸切バス事業者が運行にかかわりやすい「リスクを内在」している>と述べられ、これは非常によく考え抜かれた発言であったので、これを機に、一本化という結論へ向け急速に議論が収斂し始めた。 「理屈」の方はそれで片付いたのだが、もう一つの観点は、業界のために本当にプラスになる結論かどうかという点である。「あり方検」では(私は「ツアーバス側」で参加していたわけだが)、「既存側」から集合場所問題が持ち出されるたびに、<では停留所の権利の開放を>と、オウム返しを続けた。「戦略」としては、<では一般的な貸切バス、特に観光バスツアーや、幼稚園などの通園通学バスの路上乗降は問題ないのか?>と返す手法もないではなかったが、ここは停留所の権利一本にしぼった。停留所の権利という話は、間違いなく「既存側」のアキレス腱であった。 結局、ご存じのとおり、高速ツアーバス各社の移行に際し国土交通省が停留所の確保を「支援する」ということで決着した。結果としては「ツアー側」は停留所を確保し安定感を持って事業を継続でき、「既存側」は高速ツアーバス各社を従来よりおおむね不利な乗降場所に追い込むことができた。「あり方検」当時から描いていた構図がほぼそのまま実現したわけだ。しいて言えば、事故の影響とそれを受けた移行期限短縮の結果、「ツアー側」の状況(特に停留所と管理受委託制度の詳細)が想定よりは不利な条件にはなってしまったが。 問題は、この結果が業界に何をもたらすのかという点だ。短期的には、続行便設定の難しさなどから繁忙期を中心に「ツアー側」は事業規模の縮小を余儀なくされる。もっともそれは高速ツアーバスの6割を占める大都市間3路線において影響はあるものの、地方路線が98%を占める「既存側」にとっては大したメリットはない。ただし「既存側」の本丸たる地方向け、短中距離路線においてもやがて本格的な競争が始まり得るリスクを「既存側」が明確に認識するきっかけになれば、中期的には業界の再成長を呼び込むと私は見ている。 ではその先はどうなるのか? 高速ツアーバス業態(募集型企画旅行)は短・中距離路線に不向きだと何度も書いてきたものの、それでも福岡~宮崎や大阪~徳島などでは「ツアー側」が一定の存在感を勝ち取ってきた。そして高速ツアーバス業態には参入障壁はない。旅行業免許や貸切バス事業許可は要件さえ満たせば取得できる(繰り返すが、残念ながらその要件を守っていないヤツがいたことが問題なのだ)。一方、今月以降、高速バス市場に参入を望む者は、すべからく、停留所の権利という見えない壁を乗り越えなければスタートラインにも立てない。業界の顔ぶれが、2013年8月1日時点で事実上固定されたことになる。そのことが、長期的に見て業界の活力を奪ってしまわないか、私には不安である(ちなみにこの「停留所の権利」に関して、以前ご紹介した大分交通・蛯谷さん達の論文が、運輸政策研究機構のサイトで読めるようになったのでご確認されたい)。この問題は、今回の制度改正に関わった者の責任として、いつも念頭に置いて仕事を進めていきたい。 さて話は変わるが、連絡協議会が無事に解散することで、個別に契約をいただいている一部の会社を除くと、私はもう「移行組」各社とは無関係になる。本音を言うと、私にとって「同志的」感情を共有するのは「既存組(の中の、改革派)」の人たちであり、旧・高速ツアーバス各社の多くとはしょせん「仕事上の関係」という意識であった。しかし今回、移行期間が1年に短縮されるという修羅場を経験し、特に停留所調整やその後の段取りを主体的に担当したメンバー達とは初めて「仲間意識」が芽生えたのも事実である。いつだって、どんな背景があれど、戦友は貴重な存在である。今後はむしろ私は「既存組」のブレインとして彼らとは競合先として向き合う機会の方が多いだろうが、バイタリティ溢れた彼らが再び業界を引っ掻き回してくれることを、恐れと期待を込めて心から祈っている。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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協議会解散ですか。一本化をなしえたとはいえ、複雑な思いがあることと思います。
(2013.08.11 00:07:15)
basukeieiさん、ご無沙汰しております。おかげさまで一本化が完了しました。basukeieiさんからは強力な「飛び道具」を与えていただきまして感謝しております。もしあの時にご紹介いただけていなかったらどうなっていただろうかとぞっとします。
いろいろ思う所はありますが、「仕事」としては私の役割も無事に果たせましたし、あとは本来のクライアントの皆様のお役にたつことを真摯に考えていきます。 引き続きご指導よろしくお願いします。 (2013.08.13 18:15:35)
成定さま、はじめまして。
気になったのでコメントさせていただきます。 >だが、それを守っていないヤツがいる の件ですが、傍からみている限り「大多数のツアーバスを催行する旅行会社に遵守意志はなく」というのが正しいと思われます。 例えば、 業法12条の3の旅行業約款の掲示義務 ・自社HPで集客しているのに、旅行業約款の掲示がない ・掲示されている場合でも、標準約款を何ら修正することなくそのまま掲示している会社も存在(当然、営業保証金関係は空欄のまま) ・弁済業務保証金と弁財業務保証金分担金を混同した例 業法12条の4 2項の旅行内容の説明義務 ・HPで行う場合は、書面交付又は電磁的記録が義務づけられているが、よくてせいぜい自社HPに掲載された旅行条件書を印刷して保存しておいてください。と書いてある程度で、業法の基準を満たしているとは思えません。 電子メールで、説明書面や旅行条件書面を送付するか、省令に従い、会員のアカウントに説明書面や条件書面を記録しないといけません。 業法12条の5 旅行契約書の交付義務 旅行契約が締結された場合、遅滞なく旅行契約書の交付又は電磁的記録が義務化されています。この条項を満たしたツアーバス業者は私は存知あげません。コンビニでのレシートや、単なる予約完了メールでこの条項が満たないのは明らかです。 協議会で、なぜこのような違法行為が容認されていたのか疑問でした、 本件は、昨年の自己直後に観光庁の担当者に情報通知し、ハーヴェスト社も書面交付義務違反が追加されました。 (2013.08.17 04:49:30)
Simonさん、成定です。コメントありがとうございます(実は運行会社の中に運行に関するルールを守っていない会社があるのでは、という点を想定して書いた部分でした。しかし説得力のあるご指摘ですのできちんと読ませていただきました)。
ご指摘には論点が二つ含まれていると感じました。一つは、説明書面等の手交に関しての手法の件。もう一つは、各社サイト上の約款の正確性などの件。 前者のほうは、少なくとも私が知る限りでもいくつかの機会に各社は具体的な手法について各関係者に確認してきており、もちろんすべての事例について言い切れるわけではありませんが、おおむね各社その範囲で対応してきたと思います。 後者については、たしかに体系的に各社の状況を確認したわけではありませんがそのような事例があったことは否定できないでしょう。高速ツアーバス連絡協議会の「公式コメント」を取れば、「適宜指導してきた」ということになると思います(もっともSimonさんがそのような公式コメントを求めておられるのではないのは承知していますが、事業者団体の役割などについてはいろいろな限界もあり…) なおハーヴェスト社の違反が、具体的にどの部分に対してのものかは、けっきょく確認することはできませんでした。 少し皮肉な話ですが、乗合化したことで、ご指摘のような「表示」「書面」に関して守るべき決まり事は格段に少なくなりました。移行を終えた各社が、運行面を中心に、守るべき決まり事をきちんと守っていくことを期待しています。 引き続きご愛読、コメントをお願いします。 (2013.08.20 18:30:54)
nalysさん
>少し皮肉な話ですが、乗合化したことで、ご指摘のような >「表示」「書面」に関して守るべき決まり事は格段に少なく >なりました。 鉄道・乗合バスと比較し、過去の旅行代理店の営業行為が消費者法に問題が多かったので、広告規制・説明義務・書面交付義務等の強化につながったと思っています。ツアーバスの各社はこの歴史を曲解して、安易な方向に走ったのではないでしょうか 乗合化で仰るように格段に規制は緩和されました。現在あるのは乗車券の発券義務のみ(運賃箱に収受する場合はそれもない)ですが、それすら守れない業者もあるようです。 以下のページに驚くべき「乗車券」の写真が公開されていました。 http://ameblo.jp/hbv502/entry-11591121001.html どこに「事業者の名称」「通用区間」「運賃額」が記載されているのでしょうか? 非常に興味あるので、これを発行した箇所で当日購入してみたいような気がします。関東陸運局に報告したらどのような結果になるのでしょうかしら。 (2013.08.25 08:29:33)
Simonさん、コメントありがとうございます。
「ツアー」よりも「乗合」の方が表示類に関してレギュレーションが甘い件については、旅行業法が消費者保護を目的にした法律であるのに対し道路運送法が安全確保を目的とした法律であるという、法制論による部分が大きいみたいですね。まあ私もホテル出身ですから(かつ「アンチ・既存旅行会社」の筆頭格みたいな会社にもおりましたから)既存旅行会社に対して決して好意的な人間ではないのですが、とはいえ、既存旅行会社がこの問題で非常に苦労してきたことも間違いないようで、おっしゃる通り「身から出た」部分もあると思う一方、同情する部分もあります。また、乗合バスを消費者側から見た場合、表示類が不足している感はあり、参考にすべき部分もあると思います(特に今後の高速バス事業においては。一般の方にとって高速バスは謎だらけでしょうね)。 また桜交通の「乗車券」ですが(以下、当事者である桜交通、第4セクターさん双方に確認していないので推測)、文脈から想像するにこれはチェックイン時に渡されたようですね。つまり、道路運送法施行規則でいうところの乗車券ではなさそうです。航空でいう「航空券と搭乗券」のうち「搭乗券」にあたるんでしょうね(ここまで書いて気づきましたが、「搭乗」をバスに翻訳すると「乗車」ですから、仮に航空を基準とすると「バス券と乗車券」が正しい名称なのかも…)。まあ、「既存組」でいうと、回数券に座席指定した際に発行する「座席確保券」みたいなものに近いでしょう。だから本質的には問題ないのですが、形式的には「乗車券」という単語が、法令上、運賃収受の証として存在する以上、誤認を避けるためにも名称は変えた方がいいでしょうね。まあ、もう私の仕事ではないのですが、明日当事者と会うので伝えておきますね。 今回のように「二つの文化」を合流させるときは、問題も起こる一方、新しい進化が生まれるチャンスでもあります。特にIT環境が大きく変化している今、それを積極的に活用したいですね。 引き続きよろしくお願いします。 (2013.08.26 09:35:10)
nalysさん、コメントありがとうございます。
桜交通さんの予約フローを見る限り、 http://www.489.fm/reserve_howto.html 予約確定後には、予約IDや予約確認メールが発行されるとの事ですが、これを乗車券とみなし、現地で発行される乗車券は単なる整理券であるというのは乱暴だと思われます。 私の思う所、桜交通さんの「乗車券」は、ワンマン乗合バスの運賃計算で使用する「整理券」と大差ないように思います。 座席指や号車の指定票と考えても、券面にそのような記述は一切なく、???としかいいようがありません。 最初は、桜観光さんが、現地で乗車券の実券と交換が必要な船車券を電磁的交付し、出札窓口で船車券と乗車券の実券を交換している(旧い世代の旅行代理店のシステムとしては、非常にオーソドックスです。現在は現地で交換不要(そのまま乗車できる)な船車券が主体なので、クラシカルかもしれませんが。)のかと思いました。この点、nalysさんの解釈とは世代の違いなのか若干相違があるように思います。 (2013.09.20 05:35:46)
Simonさん、コメントをいただきありがとうございます。
そうですね…メール(PDFなどではなくテキストメール)を乗車券とみなす運用自体は、工房さんの発車オーライネットが「発車オーライネット決済サービス」を開始して以来、既存組でも活用されていて、私が楽天におりました時に既存の乗合商品を取扱開始する際にも(当局確認の上)それを倣って同様のやり方を採用しました。一本化後は、移行組の多くがそのやり方ですね。該当の事案の場合は旅行会社も絡みますが、船車券なのか委託販売なのか場貸しサイトなのか等、同社が(どのように当局に確認しているかも含めて)どのような取扱としているのかは私は確認しておりませんので、第4セクターさんのブログの 写真から何か判断することはできません(逆に言えば、同社が何か解釈を間違っている可能性もありますが)。 いずれにしても、(居酒屋で酒のつまみに話すならいいのですが、個人ブログとは言え私の実名、立場を公表しており、かつ誰でも読めるブログである以上)個別の案件についての議論は避けさせて頂ければ、ご理解頂ければ助かります。 なお、特に既存事業者のなかに「紙ベースのオペレーション」から脱却できないがために新しい施策を打てない会社が少なからずあることは歯がゆく感じています(一番歯がゆがっているのはそういう会社の共同運行先ですが)。私としては、クライアントに当たるそういう既存事業者さんたちに、オペレーション負荷を最小限にしながら新しい取組ができるアイデアをお出しし続けたいと考えています。 引き続きよろしくお願いいたします。 (2013.09.24 12:12:45) |
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