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長押 綴

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2011.03.26
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カテゴリ:.1次長
*馬耳東風の癖。
 自分を守る風。

 母から俺。
 俺から妹に。
 伝染中のそんな癖。

 ちょっとしたことに気を取られて進まないよりも、何でも手を先に動かす方がいい。
 それ以外は、悩むことが習い性の奴らがやってりゃいい。
 俺達が、馬鹿にされることをやるのが向いてるように。
 あいつらはきっと、人が嫌がることをやるのが向いてるんだ。

 そう思うから、俺は今日も手を動かす。

「おーい、今帰ったぞー!」
「坊ちゃん、お疲れさまです」
「そうですねー、さっすが坊ちゃん」

 外に人魚を狩りに行く奴。主にトリップしてきた奴か、力自慢の人々。

「あ、カンゼ!こ、こ、これ。今回の骨ねっ」
「おー、了解」
「……あ、これ、よければ、あま、あまりものだけど…」
「メイセ、あんがとな」
「え?べっ、べべ…つに、あ、じゃあ、お母さんたちによろっ、よろしくねっ!」
「分かった」

 人魚から肉を剥がして加工する奴。主に俺の幼馴染の看板娘。

 そんな奴らからぽんと渡される人魚の骨を加工するのが俺等の仕事。
 この世界にトリップしてきたばかりの奴らを、山の脅威から守り海の加護をつける仕事。
 多くのトリップしてきた奴らには誇りある仕事とか紹介されてるが、俺からしたら別にそんなことはない。ここしか生きる場所がなかったし、ここしか生きる場所を知らなかった。ただそれだけのことだ。
 別にまわりが羨ましいわけでもないけど。

 きっと何代も前の「俺」に似た誰かも、そう思ってきたんだろう。

 用途に応じていくつかの部位に切り分けて、火で燻して布で磨き上げる。
 木のようだと勘違いされることもあるが、この独特のはじいた時の響きは人魚の骨でなければ得られない。
 地上の奴らには気持ち悪がられることもあるが、そんなに地上の奴らだって大したことはしてない。平和ボケしてるやつらの特権だ、気持ち悪がる、なんてのは。
 因みに気持ち悪がって俺を馬鹿にしていた奴らには追いかけて骨を擦り付けてやった。

 楽しいもんだった。弱者が一気に強者に変われるんだからな。

 その後はしこたま母ちゃんに叱られたが、聞いてるふりで聞き流した。
 後ろから聞こえるひそひそ声だってやり過ごせば何の問題もない。大したことじゃないから。

 何がやりたいとかやりたくないとかじゃない、しなくちゃいけないのなら。生きる世界で生きやすいように自分を育てるのは当然のことだろう?

 得られるものを大事にして、得られないものを退ける。
 生物として当然のことだ。

 今日も俺は骨を焼き続ける。

 俺の祖先の中で、こんな仕事を好きに思った人なんて誇りに思った人なんてそう居ないだろう。
 だから衰退してきているのかもな。

 でも、その荷を下ろしたら食うに困るなら、衣も着られないなら、住むところがないのなら、そうするしかない。
 別に他にやりたいことがあるわけでもないし。

 ない。

 ないんだ。
 やりたいことなんてあっても、辛くなるだけなんだから。

to be continued...?





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最終更新日  2017.04.29 22:45:29
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