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長押 綴

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2017.03.30
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カテゴリ:◎2次裏漫
思い出は毒になる。

縁は病になる。

記憶は苦役になる。

 一見して毒に見えないものでも、他の毒とあわさって苦痛をもたらすことがある。
 なら忘却は、癒すことだ。

 赦しよりもずっと簡単で、諦めよりも清らかな解だ。



8月31日の葬列



「今度こそーを連れて、外に出る」
 そう言ったあいつは、度重なる稼働の影響で崩れてきた穴倉の中、岩で頭を打った。
 蛙のように井戸から外へと出てきたあいつは、そこで消えた。


 三日三晩熱にうなされて、治ったらあたし達に関わる全ての事を忘れてしまっていた。


 大人のあいつは消えて、子供のあいつになっていた。


 熾烈で獰猛で残忍で強靭な記憶は、もしかしたら蘇らないかもしれないらしい。

 あいつは記憶にもがいていたらしいから、その負荷もあったのかもしれないと言う話だった。
 全ての記憶はあいつの親友とともに沈んでいったんだろうと、あいつの相方は遠い目で言った。

 あいつは、大海を往く船の上で今、幸せそうに笑っている。
 子供のように無邪気に笑っている。
 幸せに、呑気に、仲間と共に。

 過去の過去に暮らすあいつは、過去に暮らしていたあいつとは別物のようだった。
 何かを喪失した代わりに、束の間あるいは永遠の平穏を獲得したのだ。

 それを滅ぼす者は居ない。
 あいつは滅びを知ることはない。
 わざわざ、あいつが壊れた原因を教える者も居ない。
 穏やかで優しい時間が流れていた。

 あいつを許せなかったあたしもその様子を見て、やっとどこか穏やかな気持ちになれた。

 あいつには記憶がない、罪もない。
 あたしの身内を含む、あいつらを歪ませた『先生』達による汚染は浄化された。なかったことになった。
 償える筈もない。贖ってほしいとも思わない。
 あたしもあいつの忘却によってはじめて赦された。
 緩慢な静寂の中ほっとするあたしを、記憶が奥の方から冷たい目で見てくる。

 あたしは悪くないでしょう。
 あたしは何もしてないでしょう。
 逃げる事を許すなら逃げる事を許されていいでしょう。
 世界が惨いなら、せめて朝までくらい安らかに眠らせてくれたっていいでしょう。

 どこにもやれない恨みは、いっそ眠っていたほうがいいでしょう。

 彼の穏健派の仲間だって、憎悪の連鎖は静止したほうがいいと思っているんじゃないの。
 毒矢が刺さった時は迅速に抜くことが、つまりはここで連鎖を止めることが、大事なんじゃないの。

 抜いてから初めて、包帯で巻ける。
 何がその毒の材料だと分析して、中和するものを塗り込める。
 毒矢を撃って来た人にまた撃たれないように警戒出来る。

 矢を抜かないまま傷を塞ぎ毒がまわり毒を発し毒矢を撃つ側になったあいつは、結局自分と同じ存在を造ろうとしてるに過ぎないんだから、そうなる前に止めないといけない。
 あいつが傷付いているという話よりも、現状であいつが傷付けている話の方がよほど分かりやすくて対処しやすい事だ。

 だから、あいつの傷を見えなくして、あいつが傷付けることもなくした記憶喪失は、悪いもののようにはあたしには思えなかった。




 なんで責めるの。
 ごめんなさいとは言わない。
 言ったって赦されないし、赦されないことを言うのは無駄だから。
 無駄とか無駄じゃないとか失礼なのかもしれない。けれど、こういう言い方しかできない。
 あたしは好きか嫌いでしか判断できないから、好かれる為にごめんなさいと言い嫌われない為にごめんなさいと言うから、あたしを嫌いであたしが嫌いな人が言おうと構わない。
 だけどあたしが嫌いであたしを嫌いだったあいつを、あたしが好きであたしを好きなあの人は放っておけないようだった。
『やったことは許せない。けど、あいつが苦しみにのたうち回っていたことも知ってる』

 だから余計に、分からなくなった。
 正しさの為にやってきた全てが、崩れ落ちていくようだった。
 だから、すべてが終わったらあいつともう一度話すとき、今度は少し覚悟を入れて聴こうと思ってもいた。怖かったけど、あの人が居るなら大丈夫だと思った。
 だけど、その覚悟は空振りに終わった。

 あたし以外もみんな、それぞれの戸惑いを見せていた。

「この頃は、しがらみも嫌な事もなかったわ。…一番幸せな頃だったかもしれないわね」

 罪を持たなかった良いあいつに戻ったことを、あいつの元仲間の人は歓迎していた。
 けれど、あの人やあのこやその友達、壊れたあいつをそれでも受け容れ癒していた人たちは少し寂しそうに、悼むようにしていた。

 幸せそうだから、どちらのほうがいいのか分からないけれど哀しいと。
 事情はどうあれ、自分達を助けてくれたのは歪んだ方のあいつなのだからと。
 歪んだ後もたくさん苦悶して、たくさん喪った者を悼んで、たくさん失ったものに焦がれて、たくさん頑張って、やっと大きな苦難をひとつ乗り越えたのに、と。

 その悼む顔が、それにともなって思い出されるあいつとあのこ達の絆が、その絆を目にした時あたしの脳裏に浮かんだあいつの怒りと涙が、とうとう昇華されないまま死んだそれらが、何故か一番忘れたかった筈のあたしを未だに責め立てる。

 もう居なくなってる筈なのに、その罪も穢れも全てを背負っていたあいつが背負えなくなったからかその亡霊がいつまでもまとわりついてくる。
 これは悼みなのか。痛みなのか。

 撃たれた矢が、食い込んでいる。

 抜けない。抜こうとするたびにいたみが襲ってくる。


 けれど、そのいたみを造りだした相手はもう居ない。
 責めることもできない。

 あいつがかつて持っていたものと同じ矢が、今あたしの手の中、かたかたと震えている。





*******************









後書



可愛い絵柄でディストピアの約束事をサクッとディスる西島大介さん著、
世界の終わりの魔女/恋に落ちた悪魔 の、
「掛け算もろくにできないあいつらに俺達が負けるわけがない」
「ここで諦めたら死んでいった殺された仲間達は・・・」
「俺はここまでか・・・しかし6人の兄弟の恨みは生まれたばかりの弟がかならずっ」
て言ってヒロインに記憶を奪われてお気楽に過ごせるようになった復讐者くんが某あいつらの代わりに復讐宣言してた人と重なりました。
しかも恋に落ちた悪魔ではヒロインが、裁判中にその記憶を戻して自分の弁護に使おうとしたら第三勢力に復讐者くん殺されてしまう…という。

こちらの話ではそんなことないといいんですが。記憶喪失は正直アリかナシかと言われればナシではないんですが、死なせるのはやめてください先生。
この人の生まれつきの運命を占った某占い師の涙が某所では死亡フラグの予言ではと取りざたされているけれど、そうでないことを願います。




clap





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最終更新日  2017.04.09 08:40:40
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