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本当に大切なものが見付からないのは、どうでもいいもので埋もれているから。
でもそのどうでもいいものだって、何かの時には役に立つと思うと捨てられない。 忘れたものはどうでもいいもの? そんなことはない。 捨てた後に後悔したくない。 自分がそうやって忘れられる側だったから。 「今年の雪はもうおしまいかな」 未練も想いも、せめて雪みたいに、勝手に溶けてくれればいいのに。 忘れようとしたのに忘れられなければ、どうすればいい。 皆が忘れることにあわせて忘れられない私は、どうすればいい。 雪解け水を呑む排水溝は、今日もごぼごぼとうるさくて、どこか私の唸り声のように聞こえた。 「…そうか。」 簡単なことだ。 忘れられない私ごと、忘れてしまえばいいんだ。 * それなりに、名のある家に生まれた。 だからその重い名前を崩さないことが産まれた時から求められていた。 理性的、理屈屋と言われることが誇りだった。 感情を抑えれば抑えるほど父は誉めてくれたから。 そんな私をヒステリックになじる感情的な母を、私たちは馬鹿にしながらも愛していた。母は、ますます父と私を見て感情的になり、話も通じなくなっていった。 そんな母を外に出せないと父は閉じ込めた。 私の感情は母に愛されたいと望んでいた気がするけれど、母に望めるはずもないと思っていたので諦めていた。 母のような人と結婚したのは、おそらく父の人生で数少ない感情の導いた結果なのだそうだ。 結果私が生まれたことは、理屈で言えば成功なのか失敗なのか正解なのか不正解なのか。 いつものざわりとよぎる不安な感情を押し殺す。 うるさい、黙れ。私は弱くない。 この答えを始めての恋で知るまで、私はそう自分に言い聞かせ続けた。 始めての恋が、私の感情を救ってくれた。 理屈じゃないそれに私の胸は高鳴り、その人には子供のようなー実際、普段からろくに世間に触れていないのだから当然だがー感情は浮かれきった。 父から反対され、母から普段の反撃のように馬鹿にされてもめげなかった青い感情を折ったのは、その人の拒絶。 私の二重人格的な部分に耐えられないとのことだった。 どれも自分なのに。 たんたんと、学校の屋上へ登っていく。 あの人は泣いてくれるだろうか。 こんな時も私は頭のどこかで冷静に考えていた。昔嫌な目に遭ったとき泣くか否か計算したときのように。 何がいけなかったのか。 どうすればこんな破綻は迎えずにすんだのか。 何が優しいあの人にあんな顔をさせてしまったのか。 あ、そうか。 私に、理屈があるからだ。 あれが私をも周りをも支配しようとするからいけない。 では私は?今考えているのはずっと支配されていた側の私か? ーならば、いいよな。 感情のままに動くことは最早、大義だ。 劣った者と感情わたしを見下してきた理屈と父に今こそ復讐を。 全てが裏返って見える。 体を動かすものが逆なら、黙らせる側も逆。 私は何をやってる?ー黙れ。今しないでいつするんだ。理屈なんて生き地獄のなか利用されることに納得する手段に過ぎない。 こんな下らないことやめようーうるさい。そうやっていつもいつも支配しやがって。 落ちたらきっととても痛いなーああそれでもいいさ、それよりきっと自由に感情をさらけ出せる快感が勝つだろう。 ー実際、飛び降りる時の恐怖も全て開放感が塗り潰してくれた。 こわいよ。 うるさい。こわくない。わたしは気持ちいい。 さむいよ。 黙れ。さむくない。わたしの頬は火照っている。 さみしいよ。 大丈夫。さみしくても、わたしの自由には変えられない。 やりなおしたい。 無理だ。未熟な感情には耐えられない。 その自己暗示は、いつもの無理矢理な理屈に過ぎなー あ、ぶつかっー…痛いな。痛いな。痛いな。痛いな。痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。痛い。痛いいたいーーーーーーーーーーーー よ、かっ、た。 全部がマヒしてるのか。 全てが凍ったような気がする。 真っ暗な世界の向こうに、何かが光った。 あれを求めるのは、 私の、何だろう。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2017.05.16 11:08:35
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