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カテゴリ:🔗少プリ
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・彼女はもう死んでいるのに の設定お借りしました *********** 「『鍵屋崎直』さんを、もう一人造ればいいんすよ。 精神データは全部は無理っすけど」 ビバリーの話はこうだった。研究機関に残った僕の遺伝子情報・改造のデータと、安田及びもう一人の遺伝子提供者の再度の協力があれば、『僕』の素体を造る事は可能。 僕や僕に身近な存在の証言があれば、『僕』の言動を再現する事も可能。 『僕』の精神については、証言や、周囲のリアクションにより電子頭脳が代替して再現してくれるということだった。 そんなの。 「僕の…偽物を造る……ということか」 「……限りなく本物に近い存在っす。 その『鍵屋崎直』さんに、代わりに皆さんのサポートをしてもらうのってどっすか」 「思い残すことはない、ってわけか」 「冗談じゃない!」 そんなの。 許せるわけがないだろう。 全部口実だ。 ロンとレイジはお互い支え合っている。 ヨンイルには付き合いのいい部下が居る。 サムライは元々一人で、苗への想いを抱え凛と生きていた。 恵は僕の欠けた家族の絵を描いていた。 僕が死んだことに恵がもし気付かなかったら。 あまつさえそんな新しいおぞましい『僕』を恵が兄として認識してしまったら。 「おえ……っ」 「うわっ、鍵屋崎!?」 「ビニールビニール!いや、ナースコール!」 それはもう地獄でしかない。 ******* 「もう無理しない方がいいっすよ」 「残された時間をせいぜい大切に使ったら?」 僕の嘔吐騒動の後、リョウとビバリーは彼らなりの心配をしながら帰った。 もう手立てはない。 あそこまでするほど僕は矜持と嫉妬を捨てられない。 「……僕は、サムライが苗を想っている事が羨ましかった。妬ましかった。 僕は恵にないものとされたのに」 もしも僕ではない『僕』を造るのが恵なら、それを言い出したのが恵なら、僕は一も二もなく頷いていただろう。『僕』を造る間、真面目な恵は必死に僕の存在を、これまでの言動を反芻し、更に僕の行動思考パターンまで分析してくれるだろうから。 そして、造られた『僕』を見る度に、本当の僕との違い、違和感を感じてくれれば。 けれどそうではない。 恵は、僕の絵を描いてはくれない。 「恵は僕が居ない方が幸せなのかもしれなかったから」 そうして僕は彷徨っていた。死んでもいいと思っていた。 5歳から15歳まで命と魂を懸けて愛し尽くした者に否定されて、自分を失っていた。 「だけど、サムライは僕の存在を見ていた」 そんな僕を、サムライが止めた。 「サムライの苗への想いが嬉しくて、誇らしくもあった。こんなに誠実で美しいものが獄中にも居ることが。 その存在が、僕を少し認めていることが。 ……僕が居なくなっても、僕を覚えているであろうことが、今では嬉しいんだ」 だから僕は、傷跡になりたいんだ。 偽物がもし居ても、そんなものは子供のおもちゃにしか見えないような、深く大きな存在になりたい。 いつか夢で見た緑のどろどろの化け物になっても、覚えていてくれればそれでいい。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2018.11.21 00:54:11
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