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カテゴリ:認知症 介護
面会の予約をして、夫と2人、かあさんに会いに行った。
特養の玄関ロビーにビニールカーテンが張られていた。 スタッフさんが体温計を持って事務所から出て来て、まず検温。 それからビニールカーテンのこちら側にあるソファーにかけて待ってたら、車椅子に乗ったかあさんが連れられてきた。 かあさん、なんかにこにこしてるやん。 すっごい元気そうに見える。 なぜって、夫も私も、もっと弱ってるかあさんを想像してたから。 夫と私はかあさんの方に向きを変えて、ビニールカーテンを挟んで座ったけど、かあさんは特に私たちの方を気にかけるでもなく、窓の方を見て、 まあ、きれい! と言った。 窓の外には黄色い花がたくさん咲いていた。 花の名前は知らない。 今の季節、よく見かける花だったから、私は気にも止めてなかった。 確かにきれいにたくさん咲いてるよね。 だけど、かあさんに会いに来た私たちは、かあさんの目に入ってないのかな? ほらほら、ノートとペン持って来たでしょ。 耳の遠いかあさんと話すために。 夫は、ノートに、 おばあちゃん、元気そうでよかったです。 と書いた。 ビニールカーテンにノートをくっつけてかあさんに見せた。 かあさんはこっちを見て、 なんやて? おばあちゃん?…そうでよかったです? と、声を出してその文字を読んだけど… なんや? おばあちゃんて、ばあさんのことか? と怪訝そうに言った。 ねえ、かあさん、自分がおばあちゃんだと思ってないみたいだよ。 それに、「元気」が読めないみたい。 ほんまやな〜 と夫がつぶやく。 かあさん、漢字は得意で、呆けてからも随分難しい字を読めたのに。 それに、その字、汚すぎるし。 と私は言った。 かあさん、息子のこと、忘れたか? すぐにまた窓の外に目をやって、 まあ、きれい! あんなたくさん咲いて。 ほんまきれいなこと。 と叫んでる。 ね、あなたの息子が会いに来ましたよ。 って書いてみたら? そうやな。と言って、 夫はノートに再び文字を書き出した。 ひらがなで。 あなたのむすこがあいにきましたよ。 おぼえてますか。 ビニールカーテンにつけて見せたノートを見て、かあさんやっぱり見にくいのかな? 2枚貼り合わせたビニールシートのあいだからノートをつかもうとした。 それはまずい。 かあさん、こっち側の物にさわっちゃダメだよ。 と言ってもわからないよね。 でも、かあさん、読むのやめた。 やっぱり、ビニールカーテン越しではよく見えないのか。 すぐ興味なくして、また視線は窓の外のお花に。 かあさん、目をはなすと忘れちゃうから、お花を見る度、初めて見たのと同じ感動なんだろうね。 あんなに何度も、きれい、きれいって喜んでる。 なんかおかしくて笑った。 ちょっと涙も出た。 よかったよ。 喜んでくれて。 かあさんにきれいなお花を見せてあげられて。 そうやな。 夫もそう言って… だけど、ちょっと、しょんぼり? すっかり息子のことは忘れちゃったかな? もちろん、私のこともね。 そろそろ帰ろう。 かあさん、お花も何度も見たし。 面会は15分。 ありがとうございました。 帰ります。 とスタッフさんに声をかけた。 スタッフさん、かあさんに近寄って、 3階に上がっておやつ食べましょうね。 と言いながら車椅子を引いた。 かあさんはスタッフさんの方を見てにこにこしてた。 夫と私は、かあさんに手を振ってたけど、かあさんはちっともこっちを見ない。 前回来たのはもう3ヶ月以上前。 夫がかあさんに、 わしのこと、覚えてるか? 誰かわかるか? と聞いたら、 肝心な人、忘れるわけないやろ。 と、かあさんは言った。 今、かあさんにとって肝心な人は、このホームのスタッフさん。 夫も、私も、かあさんにとってもう肝心な人でも何でもない。 きっと、知らない他人と同じ。 ほら、手を振ってくれてますよ。 とスタッフさんがかあさんに言って、こっちを向かせてくれた。 小さな、かあさん。 こっちを見て、2、3度手を振った。 それから、振り向きもせず、 スタッフさんに連れられて行った。 にほんブログ村 にほんブログ村 人気ブログランキングへ 認知症plus生活の継続 認知症看護認定看護師の実践が明らかにする“生活”を考えたケア 認知症看護認定看護師「施設の会」/編 身体拘束ゼロの認知症医療・ケア これならできる! 大誠会スタイルの理念と技術 山口晴保/監修 田中志子/監修 大誠会認知症サポートチーム/執筆 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2020.06.12 22:34:38
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