カテゴリ:ある女の話:カリナ
今日の日記(「東京DOGS」「外事警察」感想とお歳暮?)
「ある女の話:カリナ36(彼の現実)」 もうオノダさんから電話はかかってこないだろうと思っていた。 私からも一切かける気はなかった。 最低な男だと思う。 大嫌いだって。 忘れようって。 なのに、心にぽっかりと穴が開いてしまったような空虚感があって、 独りになると淋しい気持ちになった。 「カリナ、何だか元気無い…?」 マッシーが心配したように私の顔を覗きこむ。 「ううん、大丈夫だよ。」 私は無理やり笑顔を作る。 でも、一瞬聞きたくなる。 マッシーはスギモト先生としてみてどうだった? 先生の態度、変わった? でも、そんなの聞かなくてもわかるような気がした。 だって、二人は相変わらずのようだったから。 ホントは自分に起こったこと、全て話して楽になりたいけど、 言うことで同情されたりしたら、 自分が惨めになるようで嫌だった。 だから、オノダさんが言うように、 私が変なのかどうかも確認できなくて、 私を更に落ち込ませた。 それでもミキが言ってたことを思い出す。 「男なんて、やってみなくちゃわかんないわよ~。 変わるからね! まあ、変わればそんな男はもう付き合わなきゃいいのよ。」 ホントだね… 私は軽く心の中で自嘲する。 それでもミキは付き合ってる。 きっと付き合わないって決めるのは自分で、 捨てられたワケじゃない。 私だって、 私だって、自分から捨ててやりたかった。 何であんな態度を取られなきゃいけないんだろう? 私は… 彼にとって何だったんだろう? 寝る間際に携帯が震えた。 妹がもう寝ていたので、ベッドの中で表示を見る。 見て固まった。 オノダさんからだった。 「はい…」 自然と声が冷たくなっていた。 「俺…」 「うん。」 私はあの態度から、別れの電話だろうと察した。 とどめを刺さなくてもいいのに…って思った。 「何?」 しばらく間があった。 「ごめん… 怒ってる?」 意外な言葉だったので、気がゆるんだ。 自分でも意外なことに、涙が出てきた。 「うん…」 涙が止まらない。 どうして今更謝ったりするのかな… あんなに酷くて冷たい仕打ちをされたのに、 私の中のどこかが、 捨てられることを恐れていたんだと思い知った。 「泣いてる…?」 「ううん…」 「嘘だ…。」 無言でいるオノダさんの後ろ側で、 車が通るような音が聞こえた。 「今…どこ?」 「…オマエの家の近くのコンビニ。 会いたくなって…」 「すぐ行く。」 「うん…」 私が外の明かりを頼りに、 急いでセーターとジーンズに着替えて上着を着ると、 暗がりから「おねえちゃん出かけるの?」と妹の声が聞こえた。 「うん…」って言ったら、 「バレないようにね」って小さな声がした。 お父さんや弟のいびきが聞こえる。 私はそっと家を出た。 コンビニの前にオノダさんの車が止まってるのが見えて、 私が中に乗り込むと、 オノダさんが私をいきなり強く抱きしめてきた。 「ゴメン…。 俺、ホント、ゴメン…。」 私は返事をする代わりに、 抵抗しないですっぽりと抱きしめられていた。 目から涙が出てた。 あんなに悔しいと思ってたのに、 連絡が来たことが嬉しいなんて…。 自分で自分をどうしていいのかわからない。 「もう、俺のこと嫌いになった?」 「うん…。」 オノダさんは困ったような顔をして私を見た。 「やっぱ俺、オマエのこと好き… 好きだから…」 何で「やっぱ」って言葉が出てくるんだろ… こんな人、大嫌い。 そう思うのに、抱きしめられた腕にホッとする。 自分をマゾじゃないかと思った。 コレがきっと、理想じゃなくて現実と付き合うことなんだって思った。 それがまず始まりだったと思う。 現実の付き合いは、 少しずつ甘い気持ちを私から奪って行った。 「実はさ… 俺、金使い過ぎちゃって…。 今日、うちで飯でもいい? 映画借りてさ。」 「うん、いいよ。」 今まで私としょっちゅう出かけていて、 ほとんどオノダさんが奢っていたツケがまわってきたことに、 ようやく私は気付いた。 そうして、会えば外食じゃなくて、 オノダさんの家でお弁当を食べるようになり、 そのうち、私がご飯を作っていっしょに食べることが多くなった。 「これ… 何か柔らか過ぎるんだけど。 茹ですぎじゃねーか?」 私が作ったミートソーススパゲティを食べて、 顔を不味そうにしかめたオノダさんが言う。 この前はヤキソバだった。 ヤキソバに水を入れたら、 水を入れたせいでヘニャヘニャだとか言って、 すごい不味そうな顔をされた。 その顔を見る度に、 何だか料理を作ったりするのが嫌になる。 「そう? うちのスパゲティはこれ位の柔らかさなんだけど…」 ホントにそうだからしょうがない。 ヤキソバもそう。 うちは蒸すから水を少し入れる。 オノダさんちは入れないんだろうか… 「かかってるソースは美味いんだけどな… もうちょっと固めにしてよ。」 そう言いながらも全部食べてくれるので、 まあいいか…と思う。 私が料理下手なのがいけないんだし、 しょうがない。 別に作らなくてもいいかもしれないけど、 お金に無理してたことを打ち明けられて以来、 オノダさんが自分の家に行きたがるから、 必然的にお弁当かお惣菜か自炊になる。 夕飯を食べて、 テレビをいっしょに観る。 そうするとすぐ、服を脱がされるようになった。 この前は、 「新しい服なの?」 って言うから、うん。って頷いたら、 「カワイイね。」 って即脱がそうとした。 抵抗したら、 まるでネズミをいたぶる猫みたいに、 すごく楽しそうな顔をして、 どんどん新しい服が剥ぎ取られた。 私は本気で抵抗してるのに、 男の力にはかなわないし、 アッと言う間に裸にされた。 悲しかったし、すごくムカついたから、 無表情で終わるのを待ってた。 終わってからもオノダさんは、 「そんなに怒るなよ~」とか言って、 怒った私を子どもみたいになだめて相手をしない。 もう、私が何をされても大丈夫だと思ってるんだろうか? 一度関係を持ったらこんなもの? 「もうヤダ。別れる。」 「ヤダね。絶対別れない。」 冗談を言ってるんだと思ってるみたいに、 オノダさんが背を向けた私の体を後ろから抱きしめる。 「オマエがカワイイ服なんか着てくるのがいけないんじゃん。」 オノダさんのこういうところに弱いんだと思う。 甘い言葉で機嫌を取るのが本当に上手い。 そんな言葉に誤魔化されるもんかって、 私は小声でヒドイ、バカ、嫌い…って呟いた。 私がこう言っても彼は絶対別れないだろうって、 私も心のどこかで安心してる。 「今日も帰っちゃうの?」 服を着る私にオノダさんが淋しそうに言う。 「うん…」 私は捨て犬を拾わずに残していくような、 後ろ髪を引かれるような気持ちで言う。 「泊まってけよ…。」 「無理だよ…。」 もう一緒にいるのが当たり前って思ってるらしいオノダさんが、 淋しそうな顔を一瞬見せるので、胸がチクリと痛む。 オノダさんは渋々私を家まで送ってくれた。 いつもなら、私を送ってから、 家に着いたって電話が夜かかってきて、 安心して眠ることになってた。 だけど、 その日はなかなか電話が来なくて、 気付いたらベッドで携帯を持ったまま眠っていて、 目覚ましの音で目が覚めた。 慌ててオノダさんに電話をかけるけど、 何度コール音が鳴っても出ない。 嫌な予感がした。 前の話を読む 続きはまた明日 目次 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2009年12月08日 18時53分57秒
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