老子が教えるこの世の原理とは? ~東洋哲学まとめ⑦~ (2023年9月7日記事)
老子という人物は、道家の祖とされています。孔子を祖とする儒家と同じく、道家も後世に大きな影響を与えました。たとえば、「千里の道も一歩より」「大器晩成」などの言葉は、老子から来ています。諸子百家の中でも、特に大きな影響を後世にまで及ぼしたのが、儒家と道家です。 老子は、仕事を辞めて隠居生活(?)をしようと西に向かいました。その途中、函谷関という関所を通ろうとしたとき、尹喜(いんき)という関守に、「知恵を書き残してください!」と頼まれたそうです。その要望に応えて書いたのが、「老子道徳経」だといわれています。 この書き残したものが、だいたい5,000文字のものだったそうです。そう思うと、この5,000文字が時代を超えて、ずっと残っているのだと思うと、偉大な書物なのだと感じます。言い伝えによると、老子は200歳まで生きたと言われています(ホンマかいな)。 さて、今回から「道家と老荘思想」についてまとめたいと思います。まずは、老子の思想にフォーカスして見ていきましょう。 タオに従って生きる私「老先生、よろしくお願いします! 早速ですが、老先生は儒家の思想をどう思っていますか?」 老子(以下、老)「仁と礼の重要性を説くのが儒教じゃが、そもそも、世の中が乱れたから仁と礼が仕方なく作られたんじゃ」 私「乱れた世の中のための対処法として、仁と礼は作られたとお考えなのですね?」 孟子「儒教で仁を身につけよう!」 荀子「儒教で礼を学ぼう!」 私「以前登場した、孟先生と荀先生は、ああ言ってますが?」 老「仁や礼ではなく、タオに従って生きよう!」 私「タオ??」 儒家(儒教)は、仁や礼の重要性をしきりに説きました(仁=同情心・人への愛情。礼=礼儀作法・社会規範)。しかし老子は、仁や礼などは、世の乱れを対処するために仕方なく作られたものだと考えます。 老子は、仁や礼を説くのではなく、仁や礼を必要としない社会を作り、人間本来の生き方に戻るべきだと説きます。人間本来の生き方とは、道(タオ)を理解し、道(タオ)に従って生きることだといいます。老子にとって、道に従って生きることは、自然の法則を見習いながら生きるということでした。 そもそも道(タオ)とは?老子がいう「道(タオ)」とは、森羅万象を生み出し、成立させている原理のことです。道とは、宇宙を成立させる根本原理であり、具体的には、経年変化、因果関係、作用反作用などの自然(物理)法則のことです。あらゆるものは道から生まれ、道の法則に従い、道に帰っていく、と老子は説きます。 「道はこういうものだ」と、言語で表現することができません。道は見たり触れたりすることもできません。特定できないし、名前がつけられないので、道のことを無(無名・むみょう)とも、老子は呼びます。 道(無)は天地ができる前から存在し、有を生み出し続ける混沌だと、老子は考えます。万物は道(無)から生まれ、常に変化し、やがて道(無)に帰っていきます。宇宙のあらゆるものを成り立たせる存在を道(タオ)と呼ぶのです。 道徳や文化(たとえば正義、礼儀、名誉、財産、文明、知識)などの人間が作った価値も、この法則に従ってつねに変化し、やがて消滅します。道はその消滅の様子を、黙って見守るだけです。 絶えず変化し、そして、いずれ消滅する道徳や文化などの価値にとらわれていては、幸せにはなれません。それよりも、自然の法則を見習いながら生きることを老子は勧めます。これが、「道に従う」という生き方です(無為自然)。 私「タオ……、つまり道とは、自然法則のことですね」 老「万物は、道から生まれ、道に従い、道に帰るのじゃ。人為的に作られた仁・義などの道徳や文化、知識、財産などの価値も、道の法則に従って変化消滅するのじゃよ。万物はうつろいゆき、人間が作った価値もいずれ、海辺に作られた砂の城のように、消えてなくなるのじゃ」 私「砂の城のように……、なるほど(仏教の諸行無常や空の考えに似ているな……)」 大道廃れて仁義あり「大道廃れて仁義あり」という言葉には、老子の儒教に対する批判が表現されています。 かつて人は、道(タオ)に従って生きていました。なので取り立てて、仁義などの必要性をアピールしなくてもよかったのです。けれども、文明の進歩の過程で道を見失い、そこで、仁や礼、仁義で人を縛りつけ、秩序を保とうとしたのが、儒教なのだといいます。 「しっかり仁義を身につけるんだぞ!」と、縛りつけられた人々は、やがて人間性を失っていきます。仁、礼、仁義などは、自由で生き生きとした本来の人間性を奪っていくと老子は考えたのです。仁義を説く必要のない世の中をつくるべきだとするのが、老子をはじめとする道家の考えです。 『老子』は「道の道とすべきは、常の道に非ず」という一節から始まります。これは、「これが人の生きる道です」と示せるような道は、本当の道ではないということです。 老「仁義を説くのではなく、仁義を必要としない社会をつくろう!」 私「はい、老先生! ……でも、どうやって?」 いかがでしょうか? 今回は、老子の思想を「道(タオ)」を中心に見てきました。 道家の思想は、後に、仏教や陰陽五行説と合わさって、民間信仰の道教に繋がります。老子は、伝説的人物という要素もあるので、道教がどういう紆余曲折を通ったのか、はっきりしない部分もあるかもしれませんが、仏教などの思想とどこかで共鳴し、重なり合ったのかもしれませんね。 さて次回は、私が疑問に思った「仁義を必要としない社会をどうやってつくるのか?」ということにフォーカスしていきます。「道教の理想の生き方」を詳しく見ていきましょう。 それでは読んでいただき、ありがとうございます。【参考文献】続・哲学用語図鑑 中国・日本・英米(分析哲学)編 [ 田中正人(グラフィックデザイナー) ]価格:1,980円(税込、送料無料) (2023/8/28時点)楽天で購入ブログ村の「本ブログ」のランキングに参加中です!いつも応援クリック、ありがとうございます♪