テーマ:意外な戦記を語る(748)
カテゴリ:潜水空母・伊401
(カモメ)晴嵐のトラブルが多発したのですね。六月十三日、名古屋から空輸中の晴嵐一機が能登の山中に墜落、搭乗員二人が殉職しました。報告電報は次の通りです。
(ウツボ)読んでみよう。「発・六三一空司令 宛・官軍大臣等 機密 一四〇八〇番田彩雲操縦員江上益男大尉(ヨヒ二五三一)偵察員飛行兵曹長木本久義(呉新准)十三日名古屋より七尾に晴嵐一機空輸中一〇二〇石川県鳳至郡三井村山林内に墜落、機体大破、搭乗員触衝により即死、当日天候曇、雲量一〇、雲高一五〇メートル、視界一〇キロ」。 (カモメ)また、六月十九日、伊四〇〇と伊一四、伊四〇一と伊一三が相互に燃料補給訓練を行っていた時、岸康夫大尉と津田武司飛行兵曹の搭乗する晴嵐が行方不明になり、全艦出動して捜索したが、とうとう発見できなかったのです。 (ウツボ)このほか不時着事故も何度かあり、その都度出動、捜索しなければならず、飛行機を全機搭載、発進できたのは、少なくとも伊四〇〇型では二、三回しかなかった。 (カモメ)さらに晴嵐の生産が間に合わなかったのですね。「日本潜水艦史」(木俣滋郎・図書出版社)によると、晴嵐を作っている名古屋の愛知航空機が爆撃で破壊された上、昭和十九年十二月の東海地方の大地震で工場が破壊されたのです。 (ウツボ)晴嵐の生産は事実上中絶状態に近かった訳だね。ところで、伊四〇〇型潜水艦は、戦艦大和と同様に、潜水艦の本体に覆いを被せるなどして極秘に建造され、進水後も擬装するなど、艦形を分からないようにしていたが、いつしか米軍の察知するところとなった。 (カモメ)そうですね。それで、第一潜水隊が七尾湾に回航すると、七尾湾はB29により猛爆撃を受けました。また、付近海面には無数の機雷が投下されました。 (ウツボ)この第一潜水隊が瀬戸内海から七尾に移って、米軍にとっては、本来なら作戦上全く戦略的意義のない、裏日本の新潟、伏木、仙崎などが意味不明の大空襲を受けた。 (カモメ)第一潜水隊の待避港とみなされたのですね。このようなことから、訓練も順調には行かなかったが、なんとか、体制は整いました。有泉司令から軍令部の藤森参謀に「できた。そろった」と電話連絡がありました。 (ウツボ)そこで藤森参謀は軍令部の定例会でパナマ運河爆砕の作戦計画とその成果予測を説明して決裁を貰おうと思った。 (カモメ)定例会の出席者は、米内光政海軍大臣、豊田副武軍令部総長、大西瀧治郎軍令部次長、富岡定俊第一部長、黒島亀人第二部長らでした。 (ウツボ)藤森参謀が詳細にパナマ運河爆砕計画の説明を行った。説明が終わるや否や、航空特攻の推進者だった大西軍令部次長が発言した。「中止しろ、間に合わん」。 (カモメ)このとき、他の出席者からは発言がなく、異論もでなかったので、パナマ運河爆砕作戦の計画はこの一瞬にして消え去ったのです。 (ウツボ)戦後、藤森参謀は大西次長のパナマ運河爆砕計画中止発言について次の様に語っている。 (カモメ)読んでみます。「次長はこの時すでに戦争の終結の近いことや、終戦内閣・鈴木貫太郎内閣誕生の経緯を内々知っていたため、このような発言になったに違いない」 (ウツボ)また、現実的にも、最初のパナマ運河攻撃作戦の出撃予定の六月には間に合わなくなった。パナマ運河攻撃は出撃してから一ヶ月を要するのだ。差し迫った現在の戦況から余り実施時期を延ばすことはできない。それで、パナマ運河攻撃は中止になったと考えられる。 (カモメ)だが、有泉司令はパナマ運河攻撃計画の放棄をなかなか了承できなかったのです。上京して軍令部や艦隊と折衝しました。六月中旬、船田少佐は有泉司令に随行して、穴水を夜、出発しました。 (ウツボ)空襲下の信越本線を真っ黒になって南下し、日吉防空壕内の軍令部に出頭して、有泉司令は訓練準備の状況を説明の上、パナマ運河攻撃決行を懇願した。だが、採用されなかった。 (カモメ)強気の有泉司令も、ここにいたって、パナマ運河攻撃は無理と考え、計画は二転、三転しました。次に出た案が、サンフランシスコまたはロサンゼルスのいずれかを空爆する案ですね。 (ウツボ)そうだね。潜水艦の搭載攻撃機で米本土に一矢をむくい、米国民の頭上に爆弾および焼夷弾をあびせ、帝国海軍潜水艦部隊の意気を米国民衆に知らせたかった。 (カモメ)だが、この案も、差し迫った戦場を打開するのが先決問題であるという理由で海軍総隊司令部により却下されました。結局攻撃目標は、連合軍機動部隊の基地であるウルシー環礁に決定されたのです。 (ウツボ)ウルシー環礁は北太平洋の南西に点在するカロリン諸島の一つで、東経一三九度四六分、北緯一〇度、ヤップの東北東、グアム島の南南西に位置する。パラオとグアムの中間あたりだね。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2015.08.15 09:14:15
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