テーマ:意外な戦記を語る(748)
カテゴリ:潜水空母・伊401
(ウツボ)米海軍の潜水母艦プロテウスでは、ヒラム・カセディ中佐を隊長にして士官四名、兵員四十名からなるチームを編成した。チームは護衛駆逐艦ウィーバーで発見地点に向った。
(カモメ)途中出会ったのは米国駆逐艦マーレイに護衛された日本潜水艦、伊一四でした。 (ウツボ)マーレイには潜水艦経験者がいなかったので、伊一四乗組員四十名をマーレイに乗せ人質にとって、残りの日本人乗組員により、東京湾に回航する途中だった。 (カモメ)護衛駆逐艦ウィーバーは、八月三十日朝、相模湾から二百海里の地点で、ついに日本の巨大潜水艦、伊四〇〇に接触しました。 (ウツボ)伊四〇〇に対しては、すでに、米海軍の駆逐艦ブルーが護衛していた。 (カモメ)そうですね。ウィーバーの移乗班が直ちに日本潜水艦に乗り組み、デッキ下の魚雷や爆弾が降伏条件通りに処理されているか確かめた後、全バルブをロックして潜航できないようにしました。 (ウツボ)そして伊四〇〇潜水艦の日下艦長に対して、命令に従うことを約束させ、軍艦旗を降ろし、星条旗をマストに掲揚した。 (カモメ)このとき、日下艦長の目には涙があふれていたそうです。 (ウツボ)くやしかったのだろうね。そういう状況での気持ちは、我々は、少しは推し量れるね。 (カモメ)そうですね。星条旗を破り裂いてやろうかと思ったでしょうね。 (ウツボ)ところで、伊四〇一の話に戻ろう。伊四〇一に対しては、八月三十日、米国潜水艦セガンドが現れ、接近してきた。 (カモメ)セガンドは近寄ってきて国際信号を掲げたのです。国際信号の意味は「停戦せよ」でした。 (ウツボ)そこで南部艦長は巨大な潜水空母伊四〇一を停止させた。その日、海面は静かだったが、緊張は極度に達していた。 (カモメ)再び国際信号が上がりました。「降伏せよ」でした。次に「士官一名を派遣せよ」ときた。南部艦長は誰もやりたくなかったから「われボートなし」と返事をした。すると、米国潜水艦セガンドは「われボート送る」ときた。 (ウツボ)このとき、伊四〇一の艦橋には、有泉司令、南部艦長、先任将校・伊藤年典大尉、坂東宗雄航海長、片山通信長らがいた。協議の上、仕方なしに航海長の坂東大尉(海兵七〇)を軍師として出すことにした。 (カモメ)そうですね。有泉司令は坂東航海長に「ご苦労だが、敵潜に行ってくれないか。いずれ俺たちも生きるつもりもない。君も敵中どうなるか分からないが、最後のご奉公だと思って行ってくれ」と言ったのです。 (ウツボ)日本海軍では、このような場合、渉外事項は部署規定で航海長の役割になっていた。だが、ひょっとすると、坂東航海長は殺されるかもしれない。その可能性も皆の頭をよぎった。だから当然のことではあったのだが、有泉司令は、頭を下げんばかりにこの重大任務を頼んだ。坂東航海長は「承知しました」と意気に感じて引き受けた。 (カモメ)やがて米国潜水艦セガンドから迎えのボートが来て、坂東航海長はそのボートに乗り、セガンドに向いました。 (ウツボ)敵潜に向っている時、坂東航海長の心境は「今自分は単身敵艦に乗り込むが、乗組員一同の運命は自分の双肩にある。犬死だけはさせたくない。交渉が決裂すれば死である。その時は敵艦長に鉄拳のひとつも見舞って死にたい」というものだった。 (カモメ)やがて坂東航海長は米国潜水艦セガンドに到着し、乗り移りました。彼は艦橋に導かれました。すると、艦橋で待っていたセガンドの潜水艦長は、坂東航海長に突然、握手を求めたのです。それから「降伏せよ」と言ったのです。 (ウツボ)これに対し坂東航海長は「日本の海軍精神は天皇陛下の命令なくしては絶対に降伏しない。もし貴官が我々に降伏することを強制するならば、我が潜水艦をよく見ていてください。甲板上で壮烈な自決をして見せましょう」と答えた。 (カモメ)これには、米国潜水艦長は驚きました。米国潜水艦長は「ハラキリ、ノーグッド」と叫びました。そして「自決されると責任上困る。戦争はすでに終わり、円満に終戦処理が行われている。自決は無駄である。思いとどまるよう説得してもらいたい」と真剣に坂東航海長に言った。 (ウツボ)この米国潜水艦セガンドの艦長はS・L・ジョンソン少佐だった。ジョンソン少佐は、アナポリス海軍兵学校出身で、当時二十七、八歳だった。開戦の数年前、日本の海軍兵学校の卒業生がアナポリスに立ち寄って交歓したこともあり、ジョンソン少佐は日本に非常に親近感を持っていた。 (カモメ)そしてジョンソン艦長は、柔らかな調子で「グアムの米太平洋艦隊基地まで同道してもらいたい」と言ったのです。 (ウツボ)これに対して、坂東航海長はまずいことになったと思って、「燃料が少なくて、とてもグアムまでは無理である。せいぜい横須賀くらいまでである」と答えた。すると、ジョンソン艦長は旗艦の指示を求め始めた。 (カモメ)このとき、伊四〇一から手旗信号で「わが艦を速やかに撃沈せよと伝えられたし」と言ってきたので、坂東航海長は「話し合い中につき、しばらく待て」と返事しました。 (ウツボ)坂東航海長は白紙委任されて決死の覚悟で来ているのに、交渉の結果も分からないうちに「撃沈せよ」とは何のための交渉かと腹立たしく思った。 (カモメ)これは、交渉に手間取っていることに不安と焦燥にかられた有泉司令が手旗信号を送らせたのですね。 (ウツボ)そうだね。また、交渉の間、有泉司令は自沈のためか「キングストン弁を開け」と命令したりした。それで、乗員は混乱に陥った。 (カモメ)そうですね。この有泉司令の号令に対して、艦内の乗員は拳銃を用意したそうです。南部艦長はこの命令を阻止しました。艦の命令権は艦長にあるのですから。それでなんとか、艦内も正常にもどりました。 (ウツボ)やがてジョンソン艦長は「横須賀まで同道してもらいたい。それまで監視および連絡のため士官他数名を伊四〇一に派遣する」と坂東航海長に言った。 (カモメ)それで、坂東航海長は米国潜水艦の士官と一緒にゴムボートで帰ってきたのです。坂東航海長は交渉の経過を有泉司令や南部艦長らに報告しました。 (ウツボ)だが、有泉司令は、思いつめた様子だった。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2015.08.15 09:10:36
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