願い
妹が悲痛そうな声で電話をかけてきたこういう声を出すときの要件はもう決まっている「悪いけどお金貸してくれないかなぁ」今にも消え入りそうにぼそぼそと話すこの間会った時の様子でなんとなくそんな予感はしていたがなんだか腹が立って思わず言ってしまった「先月も貸してんのに返せんの?」「うん、どうにか・・・」そのあっさりとした返事にも無性に腹が立った「あんたさ何か勘違いしてない?あんたんちは立派な旦那さんがいてきちんとした収入があってあんたは専業主婦やってられて子供たちはバイトさせることもなく高校へ行かせられるんだよね?うちはさ、親がこんなだから子供たちがどんな苦労して高校行ったと思う?」 以前妹のところに厄介になった時に知った事実のひとつで次男坊の高校は電車代の他にバス代が結構かかるのだその金額を聞いてびっくりした私は甥っ子に「自転車代貸してあげるから自転車買って通学しなよそれでそのバス代お小遣いにしたらいいんじゃない?」「自転車だと1時間半から2時間かかるから無理」「違うよ駅から学校までの話だよ一回だけちょっと頑張ればいいんじゃない」「ああ、そういう子結構いるよ」と、他人事のような返事の甥っ子「本当だよねぇ」と、それを聞いていた妹のさらにのほほんとした返事 私はその時の様子を思い浮かべさらに言った 「長男は去年から授業料が無償になったけどお姉ちゃんたちは春休みのうちからバイト始めて授業料から諸経費、携帯代から保険料お弁当代まで全部自分でどうにかしてたよそれこそ高校生になってからは下着の一枚も買ってあげたことがない 最近だよ!お姉ちゃんたちが働き出して生活費を入れてくれるようになったから最近ちょっと贅沢もできるようになったけど基本的にうちは貧乏なの!!そのうえ今は私が働けないでいるのにどこからあんたに貸すお金を出せって言ってるの?」口に出して声にして言ってみると自分の親として人間としての情けなさに涙が出た 「次女は進学したいって言ってる長男のためにお昼代も節約してお金貯めてるけどそのお金を貸せって頼めっていうの?それとも来年は車検がもう通らないからって一生懸命車代貯めてる妹に頼めっていうの?なんにしても私に貸せるお金がないから無理どうしてもって言うなら自分で妹にでも子供たちにでも聞いてみな」そう投げ捨てるように言ってみたけど妹からの返事はない 「なんか言うことないの?」しばらく待って私が言うと「どうしても駄目かな・・・」泣き声が返って来た 「あんたさぁ、毎月の収入や出費は決まってるんだよね?」「うん」「じゃぁ、給料日には今月は足りるとか足りないとか解るんだよね?」「うん」「じゃぁ、なんでこの間会ったときに言わないの?あんたんとこの三男坊にお金使っちゃう前にどうして言わなかったの?」 誕生日に遊びに来ていた甥っ子にたまにだからと豪勢にお金を使ってしまったあとだった 「あんたがどう思ってるか知らないけれどちょっとばかり豪勢にお金使ったからってうちにお金が有り余ってるんじゃないよその分かなり節約してるの解ってる?」「うん」「じゃぁ、どうして使っちゃう前に言わなかったのよ」そう言ったとたんに力が抜けそれ以上何を言う気にもなれず「とりあえずみんなと相談してから返事するよ」そう言って電話を切った 電話を切ってから悶々としてしまい考えれば考えるほどに情けなくて書かずにはいられくなった 当時は自分もしてきたことだとたいした疑問もなく子供たちに強要してしまったけれど本当に子供たちには苦労をかけてしまったんだと甥っ子たちと比べれば比べるほどに自分の情けなさがこみあげてきてどうしようもなくなる 昔、自分が反抗期だった頃親に言ったことがある「子供は親を選べないんだからね」と幸い私はまだ子供たちにその台詞を言われたことはないが親を選べなかったうちの子たちはいままでどんなに苦労してどんな思いをしてきたのだろういまさら思い悩んでも仕方ないのだけれどそれでも幸せだったと思ってくれる日は来るのだろうか それでも幸せな日々を送れる将来が一日も早く訪れてくれるのを願わずにはいられない