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テーマ:洋楽(3396)
カテゴリ:ビートルズ
発売が決まっていたソロ・アルバム『McCartney』についていたプロモーション用のアンケート記事を受けてのものだった。 Q. 君はビートルズのニュー・アルバムとかシングルとかを計画しているかい? A. いいや。 Q. このアルバムはビートルズから君が去る記念かい?それともソロ・キャリアの出発かい? A.時が教えてくれるさ。ビートルズのポールと考えれば、ビートルズを去る記念さ。ポール自身のソロ・アルバムとみなせば、ソロ・キャリアの出発だろう。だから、両方だよ。 Q. 君がビートルズを離れたのは、一時的にしろ永久的にしろ、人間関係の不一致かい?それとも、音楽的なものなのかい? A. 人間関係の相違、ビジネス上の相違、音楽的な相違、しかし、なによりも大きな理由は僕が家族とより長い時間をもちたかったからさ。一時的か永久的かそんなことは判らない。 Q. 君はレノンとソング・ライティングのパートナー・シップを再び持つと予見できるかい? A. いいや。 上のような回答にいたったのは、ポールではなくむしろジョン・レノンに原因があったと言われている。 前年にあたる'69年9月20日に、メンバー間でのミーティングの席上で、ジョンがグループ脱退の意思を表明したのだという。 ジョンの発言はとりあえず内密にはされたものの、この時点でポールはビートルズの存続をあきらめた。 それが上のような発言となって表れ、さらには"ビートルズ解散"報道として広がっていくのである。 その矢先にリリースされたのが、ポール作の「The Long And Winding Road」だった。 アルバム『Let It Be』に収録されているこの曲は、ビートルズにとって20曲目の、そして最後の全米No.1シングルである。 のちの"企画もの"を別とすれば、ビートルズ最後のシングル曲でもある(ただし、イギリスでは発売されなかった)。 ロマンティックなストリングスの調べが強烈なインパクトを残すこの曲は、1970年の六月にビルボード1位を記録。 "ビートルズの終焉"を人々に強く印象づける作品となった。 この曲をプロデュースしたのは、あのフィル・スペクターである。 "ウォール・オブ・サウンド"で一世を風靡したこの大プロデューサーは、かねてからビートルズと交友関係を持っていたらしい。 '70年1月にジョン・レノンのソロ・シングル「Instant Karma!」をプロデュースしたフィルは、ジョンと会計士のアラン・クレインから、ビートルズの未発表テープのリミックスを頼まれる。中途半端な形で終わった"Get Back"セッションのマテリアルだ。 いわば尻ぬぐいのようなものなのだが、フィルはその申し入れを受け入れ、一枚のアルバムとして仕上げた。それが『Let It Be』である。 そして、その中の一曲である「The Long And Winding Road」がポールの怒りを買ったことは有名なハナシだろう。 フィルのバージョンを聴いたポールは、その仕上がりに仰天し、発売を差し止めようとしたが無駄だった。 彼の怒りは相当なものだったようで、この件に関して後々にまで不満をもらしている。 ポールは'70年12月に"ビートルズ解散"を求める訴訟を起こしているが、それはこの時の一件も関係していたのかもしれない。 「The Long And Winding Road」はもともとポールのピアノを中心とした、ジャズ・バラード風の作品だった。 レイ・チャールズが歌うところを連想しながらこの曲を書いたのだという。 元となるテイクは、'69年の1月にビートルズの四人とビリー・プレストンを加えて録音されている。 それは、シンプルでしっとりとした仕上がりとなっていた。 が、フィル・スペクターはそこに自分の方法論を強引にねじこむ。 彼は、元のテイクにぶ厚いオーケストレーションと荘厳な女性コーラスをオーバーダビングする。 その結果、ポールの細やかなピアノ・プレイはかき消され、曲全体に大仰な印象が増した。 フィルのほどこした厚化粧は、楽曲が本来持っていた繊細さをうばい、かわりに過剰なセンチメンタリズムを浮かび上がらせてしまったのだ。 ファブ・フォーの演奏とフィルの"ウォール・オブ・サウンド"がうまく溶け合っていないのも事実だ。 これはポールが怒るのも当然だろう。 僕は基本的にフィル肯定派なのだが、さすがにこの曲はやりすぎだと思う。 しかし、作品が必ずしも作者の狙いどおりに仕上がるのがベストとも限らない。 元来、"上品にして小粒"が持ち味となっているこのバラードは、フィルのアレンジがなかったら"美しいけど地味な一曲"という位置づけで終わっていたかもしれない。 オリジナル・テイクには素朴な美しさがあるものの、サウンド的には力強さに欠けているし、メロディにもフックが足りない。シングル発売されたとしても、まず1位にはならなかっただろう。 それに、壮大なオーケストレーションによる物哀しい響きは「さらばビートルズ」を演出するものとして悪くなかったと思うし、"解散の報"を聞かされた当時のファンの心にわりかしフィットしていたとも考えられるのだ。 そう考えると、ポールにとっては許しがたい一件だったろうが、当時この曲が世に出る形としては、ひょっとしてこれで正解だったのかも…なんてことも思ってしまう。 これも音楽の神によるひとつの采配だったのだろうか。 上の文章には「やりすぎ」と書いたボクですが、"青盤"(←入門編がわりに聴きまくった)の最後に収録されていたフィル・バージョンを聴いて、かつては「感動的だぁ」などと言っていたものです ポールにとって苦い思い出となった「The Long And Winding Road」だが、彼はソロになってからもこの曲を歌い続けている。 '76年のライヴ盤『Wings Over America』では、当初のようなすっきりしたアレンジで演奏されている。 また、'84年のソロ『GIVE MY REGARDS TO BROAD STREET(ヤァ! ブロード・ストリート)』ではこの曲の再録を試みているが、AORのできそこないみたいな甘ったるい仕上がりには「ダサ~っ」と失笑した覚えがある。 さらには、90年以降のライヴでは、大仰さは抑えられているものの、フィル・スペクター・ヴァージョンに近いアレンジで演奏されているのが興味深い。 そして、'96年に発売された『Anthlogy 3』、'03年に発売された『Let It Be ...Naked』では、オーケストレーションのないシンプルなヴァージョンが聴ける。 長く、曲がりくねった道のりを経て、現在、様々な形で聴くことのできるこの曲。 あなたの好きなヴァージョンはどれ? つーコトで「The Long And Winding Road」のフィル・スペクター・ヴァージョンを聴くにはここをクリック! シンプルなオリジナル・ヴァージョンはこちら。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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