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テーマ:今日のこと★☆(104019)
カテゴリ:思わず納得!
勤務先の大学では現在、卒論作成のための所属ゼミを決定するため、3年生が科の教員のところに面接に行き、卒論テーマの相談などをやっています。というわけで、私のところにもひっきりなしに学生が面接に訪れるのですが、彼らの言い分を聞いていると、まあ画一的な、つまらんことしか言わないわけ。 曰く、「ディズニーのことを調べたいです」「アカデミー賞の歴史について調べたら、卒論になるでしょうか」「映画に興味があるので、アメリカ映画を卒論テーマにしたいのですが・・・」「アメリカの祝日とかって、面白くないですか?」などなど・・・。えーい、なんでみんな同じようなことしか思いつかないんだ! しかし、今日、一人の男子学生が、ついに私をも唸らすテーマで相談に来たんです。いつかはこういうテーマで卒論書く奴が現れるのでは、と思ってはいましたが、それがついに来た。 彼曰く、「あのー、僕、アダルト・ビデオに興味があるんですが、アメリカのAVをテーマに、卒論って書けないでしょうか・・・」。 ひゃっほう! で、思わずワタクシ、聞いてしまいました。「なんでこのテーマを思いついたの?」と。すると彼が言うには、「某レンタル・ビデオ・チェーンでバイトしていて、アダルト・ビデオ・コーナーの担当なんです。で、いわゆる『洋モノ』も扱うのですが、日本のそれとは随分作りが違うので、その辺、どうなっているのかな、と思いまして・・・」。 なるほど。基礎知識もあるわけか・・・。 で、彼が発したトドメの一言。「こういうテーマで卒論を書くことを許してくれそうなのは、科の先生方の中でも釈迦楽先生だけだろうと思いまして・・・」。 ドッキューン! う、撃たれた・・・。 まあね。世の中には色々と異論もございましょう。しかし、ワタクシ個人としましては、このテーマ、あり得るかな、と思います。例えば、つい先日、神戸学院大大学院の院生(女子)が、「日本におけるラブホテルの研究」というのを完成させて話題になりました。また、ラブホ研究について言えば、我が国のシンクタンクの一つ、国立国際日本文化センター教授・井上章一先生の力作、『愛の空間』(角川書店)というのもある。つまり、下ネタは、立派に学問研究の対象になる、ということですな。 ですから、「アメリカにおけるアダルトビデオの研究」というのも、やりようによっては非常にすぐれた文化研究になるんじゃないかと思うんです。 例えば、日本とは比較にならないほど厳しい宗教的倫理の罷り通る国で、こうしたメディアがどのように受け入れられているのか。規制はどうなっているのか。売り上げ規模は? 誰が見ているのか? 流通経路は? 制作過程はどうなっているのか? フェミニスト勢力は、こうしたメディアをどのように考えているのか。年代毎に流行はあるのか? 共和党・民主党、それぞれの見解は? などなど・・・。とりあえずこれらの疑問にちゃんと答えるだけの準備をするだけでも、相当な勉強になるでしょう。 それに、何と言っても、「今まで誰もやろうとしなかった(or 思いつかなかった)テーマを持ってきた」という時点で、称賛に値しましょう。なんでもそうですが、学問に関してはなおさら、「人と違うことをする」というのは重要なポイントですから。 しかし・・・問題は幾つかあります。 まず、資料がどのくらいあるか。あったとしても、それらがすべて英文のものだとしたら、それをどこまで読みこなせるか。これは非常に大きな問題(障害)です。 あと、テーマがテーマだけに、ヘタな手のつけ方をすると、女性教員から総スカンを食う可能性がある。その方たちを十分に説得するに足るほど、アカデミックに徹底的な調査をする自信があるかどうか。これも、はじめに確認しておかなければなりません。 さらに、周囲の反応のこともある。例えばご両親。「お前、卒論で何について書いているんだ?」と親御さんから問われて、「アダルト・ビデオについてだよ!」と答えた場合、OKかどうか。また、就職を考えている場合、就職試験の面接などでその種の質問があった時に、マイナス査定されないかどうか。これらのことは、学問とはまるで関係のないことではありますが、しかし、この先生きていく上で必ずしも無関係とは言い切れませんから、そういうことだって考えておかなければなりますまい。 ということで、さすがのワタクシも、その学生に対し、必ずしも全面バックアップを約束することはできませんでしたが、それでも、久々にこちらを唸らせるテーマが出た、ということだけでも、彼の登場は今日のハイライトでしたね。 ま、もちろん彼が本当にワタクシのゼミに入れるのかどうかもまだ全然分かりませんが、ひょっとして成り行きによっては、来年の卒論指導は、相当○しい(←○の中に「苦」「厳」「楽」などの中から当てはまりそうなものを適当に入れて下さい)ものになりそうな勢いなのでした。思わず、納得! お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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ちょっと私だったら引いちゃうな。
就職のときに確かに問題ありでない?発想を買ってくれるところだったらいいけどね。 卒論ね、懐かしいね。 (June 26, 2007 03:17:16 AM)
卒論ですか・・・私も全く手付かずです(;▽;)
メディア系のゼミなので、報道と自殺でいこうと思ってるんですが、 どこから切り込んでいくかが重要ですよね。。 先生をアッと言わせるにはかなりのスキルが必要です(笑) (June 26, 2007 08:02:20 AM)
「アメリカの映像における性表現と・・・云々」という一見堅そうなテーマをつけておけばOKじゃないですか(爆)
宗教との関係などは確かに興味深いですよ。 無宗教のような日本なんて欧米人から見ると「何でもアリ」がまかり通っているような感じもするし・・・(いや、アタクシは詳しいわけではない) 釈迦楽さん、学生の方から最適の指導者として抜擢されたのですね(*`艸´) 名誉なことです♪ (June 26, 2007 10:19:50 AM)
すごいテーマですね!
セクシュアリティ研究している人はうちの研究科にもいましたが ラブホテルとは! 釈迦楽先生、頑張ってください。 黒猫はL.M.モンゴメリの生涯と教育観でした。 (June 26, 2007 01:31:38 PM)
アリアリさん
ま、このテーマでは引く人も多いでしょう。それを覆すだけの調査ができればいいんだけどね。 ちなみにアリアリさんの卒論は、いまだに「良い例」として、ゼミ説明の時に使わせてもらってるよ! (June 26, 2007 10:12:04 PM)
タナベ0122さん
お、「自殺」で卒論・・・。 一昨年、うちのゼミでも卒論のテーマとして「自殺」を選びかけた子がいましたが、あとから親の反対で変えることになりました。親御さんとしても、娘がこのテーマに興味がある、ということが不安だったのでしょう。 自殺論というと、誰でも言うでしょうが、デュルケムの有名な『自殺論』というのがありますね。お読みになりました? カトリックとプロテスタントでは随分自殺率が違う、というようなことが書いてあったのを覚えていますが、そうした文化的バックグラウンドは、死生観に大きな影響を与えるようですね。オランダは新教の国ですが、あそこはたしか積極的安楽死も合法だったような気がします。 日本のように「自決」というものを認める文化を持つ国では、自殺も多いのでしょうね。毎年、自殺で死ぬ人って一万人を越えるでしょう? 交通事故死と同じくらいの割合じゃないでしょうか。飛行機事故で500人死んだら、年間ニュースのトップになるでしょうけど、毎年その20倍の人が自殺していると考えたら、もっと報道の仕方を考えても良さそうですよね。その辺、大いに考えて、いい卒論を仕上げて下さい! (June 26, 2007 10:19:57 PM)
紅ずきんさん
「下ネタは釈迦楽先生に限る!」と言われて、喜んでいいのかっていうね。ま、その辺が。 しかし、ま、「売春は世界最古のビジネス」と言いますし、また現在でも風俗業というのはなくなっていないし、さらに昨今では障害者の人たちの性欲を満たすための風俗があるべきではないか、というような議論すらある。 そうした人間の根源的な欲望を土台にして歴史を築いてきたビジネスですから、そこに様々な文化的なものが見てとれるはずだと、私は思います。道徳的な善悪で言ってどうなのかと言われたら、さすがに善と言い切る自信はないですけど、それはそれとして、研究の対象にはなるはずですよね。 ちなみに、オランダという国は妙なところで、売春の元締めは国家です。そうしないと、そっち系のビジネスがマフィアの資金源になるからです。同じ理由で麻薬もある意味合法です。薬局で買えます。驚くべき国ですな! (June 26, 2007 10:32:02 PM)
黒猫Moonさん
「セクシュアリティ」ということを言う女性研究者は文学の分野でも沢山いらっしゃいますが、なんか彼女たちの言っていることは抽象的で、私にはピンと来ません。 もう少し腹を据えて、あるいは、あっけらかんと、セクシュアリティの「現場」の研究をする女性研究者がいてもいいのではないかと思うのですが。『スカートの下の劇場』を書いた上野千鶴子氏にしたところで、まだまだ、ぜんぜんって感じですね。 (June 26, 2007 10:36:30 PM)
ぼちぼち元気です(笑)。だいたいいつもの通りと思っていただければ・・・
研究としてはやりがいがありそうですね。分野は違えど私が3年生のときに初めて先生の門を叩いたときと同じような感覚を覚えます。本当にそのテーマに取り組むことになったとすると、ゼミで途中経過を公表するときどんなんでしょうか?ちょっと興味ありです。 (June 26, 2007 11:36:26 PM)
M(八幡)さん
そうそう、10月くらいに「中間発表会」というのがあるんだよな・・・。あれで、他の先生方や同級生たちからどういう反応があるか。ちょっと面白いような、コワイような・・・。 ところでもうすぐまた今年度分のニューズレターが行くからね。もうちょい待っててね! (June 27, 2007 12:49:18 AM)
のっけから厳しいことを申せば、クイズに披瀝するような雑知識の羅列にならないでほしいものです。しかし、釈迦楽先生の前ですが、近頃の文化系大学教授の物知らずに呆れている私としては、そのもっともウィーク・ポイントはセクソロジーに関するまったくの無知です。かつて某先生が新聞である解説をしているのを読み、その無知からくる無邪気さに呆れるより恐れいってしまいました。平安の昔から累々とする我がセクソロジーの大宝庫を「探検」したこともないらしいのです。文化系がこんなことでは、何をかいわんやです。
というわけで、釈迦楽先生、この奇特な学生氏を丁寧にお育てください。将来を楽しみにさせていただきます。もっともその楽しみは小生の命があればのことですが。 (June 27, 2007 02:55:15 PM)
AZURE0702さん
まったくその通りでして、例えば我が国のセクソロジーの宝庫たる「春画」一つをとってみても、めぼしい研究をされているのは在野の研究者ばかり。大学に在職されている方の体系的な研究などほとんどないのではないでしょうか。 そのように考えると、今回の学生の発案は貴重なものと言えるかも知れません。もし本当にこのテーマで卒論を書くなら、大いに頑張らせないといけませんね。ただ、その前にまずは私が勉強しませんといけませんが、ううむ、そこがまず怪しかったりして。 (June 27, 2007 04:12:07 PM)
年三万人くらいですよ。
あと30代までの死亡原因の一位は自殺です。 黒猫も『自殺の研究』を読んで、 シルヴィア・プラスやヴァージニア・ウルフの日記も取り寄せて、 自殺を研究しようとしましたが、 暗くなってきたのでやめました。 (June 27, 2007 11:14:09 PM)
黒猫Moonさん
そうそう、間違えました。一万人じゃなくて、三万人。多いですねー。知り合いの知り合い程度なら、自殺した人知ってるーってな確率じゃないでしょうか。そう言えば、私の大学院時代の先輩も、自殺したと聞きました。 (June 27, 2007 11:55:44 PM)
高三のとき
同級生がK塾から飛び降りて自殺しました。 新聞に載りました。 その日K塾にいました。 なにもできませんでした。 卒業直前で、 友達たちが遺影を持って卒業式に出ていました。 (June 28, 2007 01:05:27 AM)
釈迦楽さん
> 例えば我が国のセクソロジーの宝庫たる「春画」一つをとってみても、めぼしい研究をされているのは在野の研究者ばかり。大学に在職されている方の体系的な研究などほとんどないのではないでしょうか。 このテーマをいつまでも繰り返しコメントして煩わせます。「春画」ということが出ましたので、ちょっと。学術的には近年、ロンドン大学助教授タイモン・スクリーチ氏の好著『春画 ― 片手で読む江戸の絵』(高山宏訳、講談社)があります。外国人学者によってこういう良質の研究が出てきたことは、残念なような嬉しいような。いずれにしろ誰の研究であろうと、内容が学問として成立していれば慶賀すべきであります。とはいえ、私が目をとおした限りにおいても、6ケ所ほど、解釈不足があります。間違いとまでは言えないのですが、解釈の浅さとうのは、底に拡がる領域を見のがしていることにもつながり、後学者の誤解を誘わないとも限りません。・・・というような具合で、この領域は文化プロパーに及ぶ問題であると私は考えております。 (June 29, 2007 04:56:56 PM) |
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