clair de lune

　唇がカサつき、喉の渇きに目が覚めた。
ホテルの乾燥には慣れているつもりが
こう出張が多いと、さすがに体調維持が難しい。

　秋田駅に向かって歩く歩道は、雪で覆われ
革靴が徐々に濡れて、気持ち悪い。
ｽﾀｰﾊﾞｯｸｽでｺｰﾋｰをTake　Out　して
タクシーに乗り込んだ。

　話好きな運転手は、怒涛のごとく話しかけてきた。
道路はｱｲｽﾊﾞｰﾝになっていて
「おー、止まらない！」
と話しに夢中の運転手が叫ぶ。
何とか止まったけど...、スピード出し過ぎだって。

　久しぶりに降ったらしい雪は
午後になると、シンシンと降り積もり
寒さも厳しくなった。

　灯油のストーブにあたっていると
昔の事を想い出す。
何故だろう、最近田舎で過ごした日々が
ふとしたことでフラッシュバックする。
もう、本当の意味で戻る田舎は無いというのに...。

　引っ越し作業は、思ったより長引いて
ホテルに戻ったのは夕方となった。
今日は、籠（こも）って、ひたすらｺｰﾃﾞｨﾝｸﾞしないと
本当にヤバい。

　「勝負を諦（あきら）めない」
というのと
「負けを認めない」というのは
似ているけど、ちょっと違う。

　勝負は、最期まで諦めない、やっぱり。

　そして、結果は、全て受け入れればいい。
（結果的に負けても）

　ただし、全てを受け入れるからといって
望むことを、躊躇（ためら）ったり
求めることを、無駄だと思ってはいけない。

　何もかもが、神が定めた運命のもとに
執り行われると思うのならば
人は、なにも望まなくなる。

　皆が持つ権利、希望を「放棄」しては駄目だ。
ひとり、自分で、そう思いながら
静かなホテルの部屋で
キーボードを打ち続ける。