胃ガンのバイオマーカー:HER2 蛋白
HER2 蛋白は乳ガンと胃ガンのバイオマーカーですHER2とは、ヒト上皮増殖因子受容体 (Human Epidermal Growth Factor Receptor Type 2) の略で、ヒト癌遺伝子HER2/neu(c-erbB-2)の遺伝子産物であるHER2蛋白のことを指します。上皮細胞の増殖に関与する蛋白です。元々は、乳ガンの一部で、 HER2の高発現が認められているものがあり、 このタンパクを有するガンは、腫瘍増殖速度が亢進していることがわかっていました。この HER2蛋白の発現を、この蛋白に特異的に結合する抗体を投与することで、HER2蛋白活性を抑制し、ガン細胞の増殖を抑えることができます。抗 HER2ヒト化モノクローナル抗体 、トラスツズマブ(Trastuzumab)トラスツズマブ(商品名:ハーセプチン)は、米国において1992年より臨床試験が開始され、1998年乳癌治療薬としては世界で最初のヒト化モノクローナル抗体治療薬として、FDAで認可されました。日本では、1996年に第I相試験が始まり、2008年2月には、HER2過剰発現が確認された乳癌における術後補助化学療法が追加適応として承認されました。トラスツズマブ(Trastuzumab)はHER2蛋白に特異的に結合することで抗腫瘍効果を発揮する抗がん剤で、癌の増殖などに関係する特定の分子を狙い撃ちする分子標的治療薬です。日本での製造・販売元は中外製薬株式会社で、商品名は「ハーセプチン? (Herceptin?) 」抗HER2抗体トラスツズマブ(Trastuzumab)の胃ガンへの適用拡大中外製薬は2011年3月10日、 ハーセプチン(トラスツズマブ)に「HER2過剰発現が確認された治癒切除不能な進行・再発の胃がん」の効能・効果を追加する承認を取得したと発表し、4月に入って、臨床の現場においても、HER2の胃ガンに対する検査が可能になりました。トラスツズマブは、 HER2過剰発現が確認された転移性の乳癌患者の治療薬として使われていましたが、 2011年3月より、HER2過剰発現が確認される胃癌患者にも適用拡大されることになったのです。ToGA試験で、 胃癌に対するトラスツズマブの効果が明らかにされた進行胃ガンの一部でもこのHER2タンパクが関わっており、トラスツズマブが著効するものがあることが、 日本も参加した国際共同第3相試験(ToGA試験)で明らかとなり、今回の承認に至ったわけです。ToGA試験は、Herceptinを用いて切除不能な局所進行性で、 再発または転移性のHER2陽性の胃癌患者を治療することを検討した最初の無作為化第III相臨床試験です。 約3,800名の患者がHER2検査を受け、 HER2陽性胃癌であることが確認され試験の適格基準を満たした584名の患者が試験に参加しました。 同試験では、ゼローダまたは静注5-FUとシスプラチンを併用した化学療法群より、この化学療法にハーセプチンを追加した群が、統計的有意に全生存期間を延長したことが確認されました。HER2の発現を確認するにはIHC法とFISH法を用いますHER2は、 正常な細胞でもごく微量発現していますが、胃癌患者のうち 約20%の患者で、 HER2が過剰に産生・発現しているとされています。HER2陽性の胃ガン患者に対しては、 トラスツズマブの投薬対象となることから、治療に先立ち、その発現を確認することが重要です。この確認には、以下の2つの方法が用いられています。IHC法 (免疫組織化学的方法) : 癌細胞の細胞膜にHER2タンパクを免疫染色し、病理診断的に判定する方法。FISH法(Fluorescence In-Situ Hybridization) : 蛍光標識されたプローブを用いて、HER2遺伝子のコピー数を検出する検査。 HER2とCEP17 (17番染色体セントロメア) のシグナルの比が2以上を陽性と判定する。 ToGA試験では「IHC法3+」または「FISH法陽性」をHER2陽性として評価していましたが、 その中でも「IHC法2+/FISH法陽性」あるいは「IHC法3+」の「HER2強陽性症例」において、 もっともトラスツズマブの併用効果がみられました。IHC法とFISH法でHER2 が陽性の場合トラスツズマブの投与対象となる「IHC法3+」と「IHC法2+でかつFISH法陽性」「FISH法陽性」の患者が トラスツズマブの投与対象になります。IHC法2+のうち、54.6%がFISH法陽性で、 トラスツズマブの投与対象となることから、IHC法2+はFISH法による再検査が必要となります。