夜間高血圧とNon-dipper型本態性高血圧症
近年、24時間携帯型自動血圧測定ambulatory blood pressure monitoring(ABPM, 日本では2009年より保険適用)が普及したことにより、生体リズムや概日リズム(circadian rhythm)を考慮した時間医学(Chronomedicine)が注目されている。(1)夜間高血圧とNon-dipper型本態性高血圧症血圧は通常昼間活動期に上昇し、夜間睡眠時に下降する日内変動を示すが、夜間の血圧の降下度が日中の血圧に比して10%未満のものを夜間降圧減弱(non-dipper)という。 自律神経障害を示す病態(糖尿病、パーキンソン症候群)、脳卒中、左室肥大、心不全、睡眠時無呼吸症候群などの症例でNon-dipperを示すことが多い。 Non-dipperを示す症例は、Dipperの症例に比べ、脳卒中、心不全の発症頻度が2倍という報告もある。一般的には夜間血圧の上限は120mmHgとされており、朝の血圧が高い場合は、夜間血圧も高いことが予想される。Non-dipper型高血圧ではナトリウム排泄を促進する利尿剤を投与することでNon-dipper型がDipper型へと移行することが認められており、ナトリウム排泄障害が Non-dipper型高血圧の発症機序と考えられる。また、 Non-dipper型ではメラトニンの分泌低下が示唆されており,メラトニンの投与による夜間降圧の増強が報告されている。(2)夜間高血圧と慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease, CKD) CKDでは夜間高血圧は珍しくない。本態性高血圧では7割がdipper型,3割がnon-dipper型であるが,CKDでは5割がnon-dipper型である。CKD stageの進展とともにnon-dipper型が増加し,透析直前には8割弱がnon-dipper型を呈する。CKDがnon-dipper型を呈する機序としては,自律神経障害の存在,交感神経系やRAASの過剰な賦活化,塩分代謝異常,睡眠時無呼吸,血管反応性とNa利尿の減弱などが報告されている。CKDではタンパク尿の合併が相加的に高血圧を増悪させる。1型糖尿病では,微量アルブミン尿のある患者では5年後の夜間高血圧が有意に多く,逆に収縮期血圧が5mmHg上昇すると,微量アルブミン尿のリスクが44%増加するとされている。non-dipper型の本態性高血圧患者では3年後の腎機能が15.1%低下するが,dipper型では+1.3%と横ばいであり,non-dipper型で腎予後の悪いことが示されている。dipper型でもnon-dipper型でも,CKDを合併すると約2.5倍心血管イベントのリスクが増大するが,当然ながらその程度はnon-dipper型で大きい。夜間高血圧がもたらす腎障害と生命予後の悪化を断ち切るために,いくつかの介入策が考えられる。生活習慣の是正では,塩分制限が第一であり,非薬物的介入としては閉塞型睡眠時無呼吸症候群の患者の陽圧換気,薬物的介入として自律神経障害の管理や降圧薬の夜間の作用を増強させるための服薬時刻のシフトなどが挙げられる。 (A J Peixoto, New Haven, CT, 2009AHA #4992)(4)夜間高血圧の治療生体の日内リズムを見ると,夜間に血圧は15%低下し,NaClの排泄は67%低下するが,レニン・アルドステロンは夜間から早朝にかけて200%,コーチゾールは100%増加する。夜間高血圧の治療には,これら生体の日内リズムを考慮した上で,薬物動態に配慮した投薬が重要である。体液過剰・Na利尿の障害(CKD)に対しては夜間の投薬やARBと降圧利尿薬の併用,交感神経活性の上昇にはα1遮断薬の使用,睡眠時無呼吸を介する場合にはCPAPの使用,RAAS抑制にACE阻害薬・ARBの使用,Ca拮抗薬では夜間高血圧に効果の報告のあるdiltiazem, amlodipineなどの使用,中枢性の調節障害に対してメラトニン投与の有効性が示唆されている。 夜間高血圧への早期治療介入で臓器障害の進展予防と予後改善が期待されるが確証は無い。今後前向き臨床試験での検証が望まれる。 (R A Phillips, Worcester, MA, 2009AHA #4993)注:αブロッカーは最近の大規模臨床試験では最も古典的な降圧薬である降圧利尿薬よりも脳卒中や心不全予防効果が劣ることが明らかになり、欧米の治療ガイドラインでは第一選択薬から外されている。日本でも JSH2009では α遮断薬は主要降圧薬から除外された。