原子力発電所事故による急性期及び慢性期健康障害(1)
文部科学省は6月7日より、大学などの協力で測定・発表している空間放射線量について、測定場所を公開しました。3月12日からの日々の都道府県別環境放射能水準調査結果はWebsite上に掲載しています。http://www.mext.go.jp/a_menu/saigaijohou/syousai/1303723.htmこれによると、空間放射線量(東大):0.17 μSv/h空間放射線量(福島):0.29 μSv/h環境放射能水準調査結果(新宿):0.06 μSv/h環境放射能水準調査結果(福島):1.6~1.7 μSv/hとなっており、東京では年間1.5mSv、福島では15mSv と計算されます。(μSv/h=マイクロ・シーベルト 毎時)しかし、政府の発表と各自治体、個人の測定の間には大きな違いがあり、各自治体の測定では、東京足立区で0.22 μSv/h(6月10日)、葛飾区0.31 μSv/h(5月25日)、千葉・柏では0.54 μSv/h(5月31日)と高値を示しています。http://mytown.asahi.com/areanews/chiba/TKY201106020566.html一体どのくらいの放射線量を浴びると、健康に問題が生じるのか、何を基準に、1mSv(年間積算量1ミリ・シーベルト)以下なら大丈夫とか、20mSv以下なら、今すぐ障害はおこらないとか言えるのでしょう。被爆する放射線積算量が高ければ高いほど、癌や白血病に罹患する可能性が高くなることは予想されますが、実際のところその根拠となるデータは、ロシアのチェルノブイリアメリカのスリーマイルの原発事故、日本の原爆投下後の影響などのデータを参考にするしかありません、福島県人を今後30年間追跡調査する、という発表がありましたが、このような追跡調査は世界に類はないので、今後、正確なデータが出てくると思います。(1)原子力発電所事故による急性期及び慢性期健康障害6月16日のNew England Journal of MedicineにShort-Term and Long-Term Health Risks of Nuclear-Power Plant Accidentsと題する総説が上梓されました。(NEJM 2011; 364: 2334-2341)ペンシルバニア大学放射線腫瘍学講座からの報告です。本総説では、1979年にペンシルバニアのスリーマイル島で起こった原発事故1986年にチェルノブイリで起こった原発事故後に報告されたデータを基に原発事故に伴う放射線障害について論じています。これによると、スリーマイル島原発事故後32年経ちましたが、放射線被曝に伴う健康障害については未だにはっきりとした影響はわからないということでした。チェルノブイリについては、事故後1年経過した時点で放射線被曝を原因とした28人の死亡が確認されています。(2)放射線被曝を引き起こす放射性元素放射線による人体への影響度合いを表す(被曝線量)単位をシーベルト(Sv)、放射性物質が放射線を出す能力を表す単位をベクレル(Bq)で表します。ベクレル(becquerel, Bq)は、放射能の量を表す単位で、1 秒間に1つの原子核が崩壊して放射線を放つ放射能の量が1 Bqです。例えば、毎秒370 個の原子核が崩壊して放射線を発している場合は370 Bqとなります。同じベクレル数の放射性元素でも、それが放射する放射線の強さは元素によって異なります。シーベルトとベクレルの関係がよくわかりにくいかもしれませんが、硬貨に例えて説明してみます。放射線量ベクレルは、硬貨の枚数の単位(枚数)と考えます。被曝線量シーベルトは硬貨の価値の単位(合計金額)と考えます。(A) 10円玉2枚、50円玉3枚、100円玉3枚あるとします。放射線量ベクレルは、2+3+3で合計は8枚(8Bq)となります。(B) 1円玉が8枚あるとします。この場合もベクレルは、8枚(8Bq)です。つまり、放射線量ベクレルは、AもBも枚数としては同じ8ベクレル。しかし、硬貨のお金としての価値(シーベルト)は全く異なりますね。Aは合計470円(470シーベルト)Bは合計8円(8シーベルト)となります。よって、これを人体の受ける被曝量にもどして考えると、人体が受ける総被曝量(総合計金額)はどのような元素がどのくらいあるか(どのような硬貨が何枚あるのか)によって決まるのです。各元素(硬貨)が及ぼす被曝量(金額価値、シーベルト)は、各元素(硬貨)がどのような放射線(α、β、γ)を出すかによって決まります。放射性物質(硬貨)にはさまざまな種類があり、放射性物質によって、放出される放射線の種類(α、β、γ)やエネルギーの大きさが異なるため、これにより人体が受ける被曝量(シーベルト、合計金額)は異なります。このため、放射線が人体に与える影響は、放射性物質の放射能量(ベクレル)の大小(硬貨の枚数)を比較するのではなく、放射線の種類やエネルギーの大きさ、放射線を受ける身体の部位なども考慮した被曝量(シーベルト、硬貨の合計金額)で比較する必要があります。以上の内容を理解した上で以下の表を見ると、原発事故で放出された元素(硬貨)が如何に多くの種類があり、それぞれが及ぼす被曝量(硬貨の価値)がそれぞれ異なることがわかります。ヒトの被爆総量を調べるのに、それぞれの元素がどのぐらいあるか(どの硬貨が何枚あるか)を示しても、意味がありません。知りたいのは総金額(シーベルト)なのです。しかし、長期的な被曝線量を推定するには、それぞれの元素がどのぐらい存在するのかを知っておく必要があります。チェルノブイリ原発事故で飛散した放射性元素とその半減期、放出概算量を示します。ここでPBqはペタ・ベクレルで10の15乗ベクレルのことです。半減期の短いものから長いものの順に列挙します。