ウイルス性心筋炎はウイルス抗体価では正確に診断できない?
最近ドイツの研究者が、心筋炎が疑われる124人の患者を対象に、心筋生検(endomyocardial biopsy;EMB)を行い、免疫組織染色法、ウイルス遺伝子のPCRを行って心筋炎の確定診断を行い、同時に血液検査で、enterovirus, adenovirus, parvovirus B19, cytomegalovirus, human herpesvirus, Epstein-Barr virusに対する抗体価(急性期IgM,IgA及び慢性期IgG)を測定し、血液検査でのウイルス抗体価が心筋炎の診断に有効かどうかをしらべた。心筋炎が疑われた124人のうち、心筋生検で炎症が認められたのは54人PCRでウイルス遺伝子が確定されたのは58人(47%)血液検査で急性期にウイルス抗体価が陽性になったのは20人(16%)心筋生検で同定されたものと同じウイルスに対する抗体価が陽性になったのは5人のみ以上より、血液検査によるウイルス抗体価測定による心筋炎の診断について感受性(Sensitivity)は9%特異性(specificity)は77%陽性適中率(Positive Predictive Value, 検査結果が陽性に出た場合に、その疾患である確率)は25%陰性的中率(Negative Predictive Value, 検査結果が陰性に出た場合に、その疾患で無い確率)は49%結論として、この研究からは、心筋炎の診断には、血液検査によるウイルス抗体価測定は有用ではない、としています。Virus serology in patients with suspected myocarditis: utility or futility?Eur Heart J. 2011; 32(7):897-903 (ISSN: 1522-9645)(1)心筋炎の原因心筋炎の原因で最も多いのがウイルスの感染による心筋の炎症ですが、心筋炎はウイルスによる感染のみならず、細菌(ジフテリア、リッチケア)、寄生虫、薬物、放射線、熱、代謝障害、リウマチなどの膠原病、サルコイドーシスなど様々な原因によって起きます。原因の特定できないものも多く、特発性心筋炎といいます。原因ウイルスとしては、本研究で調べた5つのウイルス以外にコクサッキーB群、コクサッキーA群、エコー、インフルエンザ、C型肝炎、HIV、などがあり、この中でもコクサッキーB群による心筋炎が多いとされています。本研究では、これらのウイルスすべてについて調べている訳ではないので、十分とは言えず、果たして、「ウイルス抗体価測定は有用ではない」と結論づけてよいかどうかは疑問です。(2)心筋炎の症状心筋炎の診断には、心筋炎に特徴的な症状から、まず心筋炎を疑って、治療を進めつつ、経過を注意深く追いながら診断を確定していきます。心筋炎を発症した場合、発熱、頭痛、せき、咽頭痛などのや筋肉痛などのかぜ様症状、悪心、嘔吐、腹痛、下痢などの消化器症状、皮疹などが出現します。心症状としては、胸痛、動悸、呼吸困難、不整脈、失神、時にショック状態になるなどの危険な状態になることもあれば、症状がほとんどでず、目立たずに自然に治ってしまうこともあります。(3)心筋炎の診断診断には心電図によるST-T異常、心エコーによる壁肥厚、壁運動低下、心腔狭小化、心膜液貯留、血液検査にて心筋トロポニンT、CK-MB、CRPの上昇、白血球増多などの所見が心筋炎の判断材料になります。確定診断には、心筋生検が必要で、以下が診断基準となります。1.多数の単核細胞の浸潤(多核白血球、多核巨細胞を認めることもある)2.心筋細胞の断裂、融解、消失3.間質の浮腫、線維化心筋炎は局所に起こるため生検は最低3カ所以上行うことが望ましいとされています。(4)心筋炎の治療急性心筋炎のうち急激に血行動態の破綻をきたし、致死的経過をたどる劇症心筋炎が発症することもあるため、初期の感冒症状が軽くても心筋炎が疑われる場合は注意深い経過観察が必要です。心電図でQRS幅の拡大、洞性徐脈、心室性不整脈、房室ブロックがみられたり、心エコーでびまん性の左室壁運動低下と壁肥厚、血液検査でトロポニンT高値、CKおよびCK-MB高値、代謝性アシドーシスが認められた場合は、劇症心筋炎に移行する可能性が高いので注意が必要です。治療としては、巨細胞性心筋炎に対しては大量ステロイドパルス療法や大量免疫グロブリン療法が有効との報告もあるが、確立された治療法はありません。心不全に移行した場合、ACE阻害剤、ARB, β遮断薬,利尿剤などの薬物療法、IABP, PCPS,LVASなどの機械的心機能補助を必要とすることもあります。