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2008.08.14
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カテゴリ:わくわく児童文学
児童向けの”平安ファンタジー”の名手・伊藤遊の作品を読んだ。

○ストーリー
小学6年生の少女・ほのかの住んでいるマンションの隣には,お蔵まである古い家があった。マンションのゴミ捨て場で放火騒ぎがあってから,そこで不思議なことが起きているらしいことを,ほのかだけが知っていた。兄の雄一が,窓からタバコの吸殻を捨てた時,とうとう事件は起きた。果たして,お蔵には何がひそんでいるのか?ほのかたちの家族はどうなってしまうのか?

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のっけから偉そうな言い方だけど,伊藤遊にフツーの現代児童文学が書けることが分かり,安心した。

原典を知ろうともせず,他の作品の孫引きで書かれるヨーロッパ中世風の物語がまかり通る中,自然に日本中世を舞台にした物語を書くことができる,というのは本当に貴重な才能だと思う。けれども,残念ながらそうした物語の需要が多く存在するワケではない。だから伊藤遊は,才能はあるけれども,マイナーな作家というイメージだった。

この作品は,長い間使われてきた道具がいつしか魂を持ち動き始める,という「九十九(つくも)神」の思想を背景にしている。日本古来の物語を作品に取り込む部分はこれまでの伊藤遊なのだけど,それにほのかの一家のマンションの建替え問題,ほのかのクラスメートとの問題,雄一の非行化の問題をミックスし,親しみやすい作品に仕上がっている。

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現代の日本のイロイロな問題を描いている割には,全体的にライトな語り口だ。大人たちの多くは自分の利益ばかり考え,クラスメートの女の子たちはアイドルのことばかり考えている,という愚かさだ。

そして自分たちのお蔵を守り,またほのか達と再会するために現れたつくも神たちが,なんとも可愛らしい。「神」ではなく「あやかし」レベルなので,大した能力も持っておらず,姿もユーモラスだ。

この語り口をサポートしているのが,イラストの岡本順だと思う。繊細で柔らかいイラストは,この作品にぴったりだと思う。

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この作品で最も優れているのが,主人公ほのかの家族の描き方だろう。怒りっぽいお母さん,落ち着いているお父さん,不良の仲間に加わってしまっているお兄さん,それにほのかの4人家族だ。

伊藤遊は,この家族に関しては,決まりきった描き方を避けているように思われる。いつもケンカばかりしている母親と兄が,ふとした拍子に一緒に笑っていたり。いつもは口をきいてくれない兄が,話しかけてきたり。そんな距離感の変化って,実はとてもリアルだ。

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つくも神たちとの別れも,悲しいながらどこか未来に希望を残した形になっていて,爽やかな終わり方となっている。エコ替えがPRされている今時だけど,本当にモノを大事にする,っていうのは愛着を持って使い続けることだよね。







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Last updated  2008.08.15 23:17:15
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