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カテゴリ:わくわく児童文学
上橋菜穂子の2つ目のハイファンタジーとして評判となった〈獣の奏者〉の外伝を読んだ。
○ストーリー リョザ王国の聖なる神獣を操る能力を持ったために,王国の命運を握る争いに巻き込まれる少女エリン。そんな彼女が大人になり,心を許したのは王の護衛として,暗殺を繰り返していた寡黙な男・イアルだった。それぞれ孤独に生きてきた2人は・・・ ------------ 上橋菜穂子は,なんと言っても〈守人シリーズ〉が有名だが,続けて発表した〈獣の奏者〉もNHKでアニメ化されたことで評判となった。 〈獣の奏者〉は第I部と第II部で一度は完結したが,その10年後を描いた第III部と第IV部が,第2期として3年後に発表された。 この〈外伝〉は,その第1期と第2期の間を埋める「刹那」と,第1期のさらに以前を描く「秘め事」で構成されている。 ------------ 「刹那」では,イアンの視点で,いかにして彼が,シリーズ主人公のエリンと夫婦になり,子供をもうけるに至ったかが語られている。これは第1期と第2期のミッシングリンクなので,これまでの読者としては楽しめる。 それに対して「秘め事」は,エリンの師の老女・エサルの若い頃の恋と過ちが描かれる。元の作品で老女だったキャラクターのそうした逸話を知らされても,あまりピンと来ないし,楽しいとも思えない。 作者としては,この〈外伝〉を,大人の女性のための逸話として著したらしい。そりゃあ,児童文学のフィールドの中では大人の女性が語られないので,こうしたアプローチは珍しいかも知れない。けれども世の中に,大人の女性に向けた文学作品はいくらでもあるので,あえてこのフィールドで,性や出産を描かなくても良かったんじゃないだろうか? 「ポケモン」など児童向けゲームのアダルト版が無くても良いように,〈獣の奏者〉にもアダルト版は不要だと思う。 ------------ 〈守人シリーズ〉では,王位争いと怪異に巻き込まれる少年と,その用心棒の中年女の2人の主人公で語られることで,事件の主体者と観察者の2つの視点があることが秀逸だ。 それに対して〈獣の奏者シリーズ〉は,政争に巻き込まれる少女がそのまま主人公ということで,真面目で思い込みの強い主人公の視点だけで物語が展開している。 この〈外伝〉は,本編主人公・エリンの夫と師匠という2人の視点からの物語を,このシリーズに導入してくれたが,それによってシリーズのファンが得られたものは,あまり多くないと思う。 ------------ 僕の姉もこの作品を読んでいて,「不快だった。このシリーズとして描く必要なし」と切って捨てていた。 個人的には外伝物やスピンオフは好きなので,気にせず読んでみたが,本編以上の閉塞感やナルシシズムが強く,その上に無理にとって付けたような大人のセックスや出産があって,「なるほど不快だ」と思った。 児童文学のシリーズの一部として,この作品が刊行されているのは,ちょっと問題だと思う。 まあ,さすがは上橋菜穂子のネームバリューなんだろうけど。・・・でもダメだろう。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2013.12.11 00:03:08
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