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2016.12.09
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カテゴリ:わくわく児童文学
北森鴻のジュブナイルミステリーという珍しい連作短編集を読んだ。

○ストーリー
〈ぼく〉井沢コウスケが通う桜町小学校の3年2組に,美少女・鷹坂ちあきが編入して来た。次々と起きる事件に,ちあきはコンピュータのVR機能を利用して立ち向かう。ちあきと〈ぼく〉の不思議な毎日が描かれる。

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北森鴻というと,お洒落なバーを舞台にしていたり,美術の世界を描いていたり,大人向けのミステリー作家という印象が強い。ジュブナイル作品を書くミステリー作家は多いが,雑誌「小学3年生」に連載をしていた,という人は少ないだろう。

作品の解説によると,この意外性には裏事情があるらしい。その後,北森鴻はジュブナイル作品を著していないところを見ると,ある意味この作品は彼の”黒歴史”だったのかも知れない。

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そんな邪推とは別に,作品はライトにコミカルに仕上がっている。「小学3年生」向けということで,当たり前だが舞台は小学校,言葉も平易だし,短編としても短いものばかりだ。

物語の展開は,舞台の桜町小学校で謎の出来事が起き,それを転校生の美少女・ちあきと主人公・井沢コウスケが解くというものだ。ちあきは冷静な観察力と推理力を持っているのだが,何かと言うとVRゴーグルを取り出して,コンピュータのVR世界の中で推理を検証する。VR世界になると,ちあきが「コウスケ,君は○○したまえ」と口調が変わるのが面白い。

彼らを取り巻くキャラクターも魅力的だ。ちあきに対抗し,取り巻きと〈美少女探偵クラブ〉を結成し,失敗ばかりしている高飛車な同級生・小椋カオル。おっちょこちょいで噂話が大好きな谷川ゲンキ。天然でダジャレがすべってばかりの女性・姫岡先生。そして警部であるコウスケの父親と,少林寺拳法の師範であるちあきの母親。

お決まりのギャグや展開があり,少し鯨統一郎作品風なのだが,事件の謎解きがきっちりとロジカルなのはさすが北森鴻だ。

決して傑作ではないけれども,与えられた条件で,きちんと楽しめる作品を書くのは,北森鴻の素晴らしさだ。

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各編について簡単に感想を述べる。

「桜並木とUFO事件」:学校に遅刻しそうになった〈ぼく〉は,途中で転校生の鷹坂ちあきと出会う。登校してみると,校門の前の桜並木の枝が切り落とされていて,警察が捜査する事件となっていた。さらに学校の裏山ではUFOが目撃されたという。クラスのクイーン・小椋カオルは,ちあきに事件の推理の競争を持ちかける。そこで・・・ページ数の制限のためかも知れないが,展開の速さに驚く。それと小学生向けの平易な文章もあり,全体的にライトな味わいとなっている。今一つコンピュータでVR世界に入り込む必然性が感じられない。作品の”キャッチ”として必要だったのだろうか?

「幽霊教室の怪人事件」:学校の裏庭にある〈開かずの倉庫〉に幽霊が出た。ちあきとコウヘイは夜の学校に調査に向かうが,そこには既にカオル,ゲンキ,そして姫岡先生までもいた。倉庫で発見した古い地図を元に,彼らが見つけたのは?・・・キャラクターの配置が定着したようで,コミカルになっている。一方で校長先生がなにやら怪しげで怖い。途中の展開は必要だったのだろうか?

「ちあき誘拐事件」:桜町にサーカスがやってきて,3年2組の男子はそれに夢中だ。一方で女子は評判の占い師の話題で盛り上がっている。サーカスが町中の人を無料招待した日,ちあきは行方不明となってしまう。老人の行うトリックを解いたと思いきや、ちあきが行方不明に?!・・・サーカス,占い師と昭和探偵物語風の品揃えとなっている。小椋カオルいい味出しているし。

「マジカルパーティー」:休みの日に学校でクリスマスパーティを開くことになった3年2組。だが教室には〈サンタからの挑戦状〉が届いていた。コウヘイたちは,次々に謎を解き,そして?・・・ぽんぽんとテンポ良く進むのだが,謎が2つだけとは,さすがに物足りない。ページ数がさらに少なくなっているが,これは番外編なのだろうか?

「雪だるまは知っている」:大雪となった1月,3年2組は校庭で遊び,雪だるまを作った。翌朝,なぜか雪だるまの表情が変わっていた。犯人は?・・・これまた番外編かと考えてしまうほどの掌編だ。夜に雪の中で遊ぶと風邪を引くと思うのだけれど。

「ちあきフォーエバー」:母親が開いている道場が大家の通告で閉鎖となる。それによりちあきも引っ越しをしていなくなってしまう。コウヘイたちは,大家が盗難になった宝石を探し出すことで,道場が継続でき,ちあきの引越を阻止しようとする。だが事件の裏には?・・・最後は冒険ミステリー仕立てできちんと終わった。頑張れ,カオル!














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Last updated  2016.12.10 11:10:10
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