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レイ・ブラッド荒川ベリ。

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2023.10.17
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レイです。
以仁王を探せの中の、詩みたいな部分を集めています。
私の愛蔵書とともに。今回は辻まこと「居候にて候」


 森の奥のほうでは、きゅうに強い風が吹いて、木がざわめいた。こいつらはいつの話をしているんだろう。何の話をしているのかも聴こえなくなった。夢なのか、よく見る風景。よく出かけたその深い森に私は居るのだった。最前から小さな呟きが聞こえていた。だいたい深い森にはいつからそこに生きて来たかわからぬほど昔から生えている老木霊樹はざらに並んでいるものであって、彼らは人の言葉のような嘘ばかりの低俗のシグナルは解さぬ代わりに、死を賭したギリギリの生き物の気持ちならば吸い溜めて置くのだという。その想念の強ければ強いほど印象は深く、霊樹はそれを吸収し年輪の間の特別な襞に溜めるのだと。彼らは滅多に口を利かぬが時折我慢が出来ず、木霊という残響に紛れて大声で秘密を吐露するらしい。


 私と云えば妄想を積み上げることに夢中になっていた。今も森の中を歩いていてその通奏低音のようなさざめきには少しも気が付かなかった。しかしかなり長く此処に居た為なのか何かが表層に上がって来た。以仁王の行路を意識してダウジングをするように少しずつその辺りを歩いていると何か残響のようなものが聞こえてくる事が分かった。それはダンテの聴いた地獄の歌のように私には快く響いてきたのである。定型的であるとか韻律を揃えるというのはそもそも歌われることを前提にするからだ。
 確かにそれは拾い集めればまるで歌の文句であって、古来この国にあった呪詛としての歌謡の語彙やニュアンス、ちりばめられた序破急のリズムは言葉の歴史に詳しければ分かろうものだが、残念ながらそうした素養を積まなかった私の耳ではせいぜい知っているボキャブラリーやリズムで聴き取るしかなかったのだ。「鴨長明のグッジョブ」なぜかそう聴こえた。さわさわした森の下草の萌える音に埋もれながらもひょんと耳には引っかかってきた。鴨長明か。長明などと呼ばれたのはずいぶん経ってからだから以仁王がそう呼ぶ筈は無い。これはもっと時代の下った別の誰かの想念だろう。地層のミルフィーユのめくりの回数が違ったのだ。


 ・・・スザザ とにかく 何かが聞こえる さいぜんから誰かが何かを喋っている 切れ切れに聞こえる 誰の声だろうか それを確かめたくて 知りたくて 鉱石ラジオのチューナーを注意深く回している バツンと奈落 ザーッと局間ノイズ 溢れ また途絶える そして突然 若い男の独白が飛び込んで来る あ これかも知れない・・・
  (以仁王を探せ! 97ページのあたり)





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最終更新日  2023.10.20 00:37:55
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